永は少しだけ不安そうな顔をした後、小さく頷いてから蕾生に優しく語りかける。
「ライくん、これから話すこと──驚くなって方が無理だと思うけど、出来るだけ落ち着いて聞いてくれる?」
「……わかった」
「途中でなんか変な感じがするとか、具合が悪くなったら絶対言って」
「あ、ああ……?」
蕾生の体の頑丈さは充分知っているはずなのに、今日は朝から随分体調を気にするなと思った。だが、そう言う永の顔がとても真剣で少し怯えているようなので、蕾生は大きく頷いた。
「ええっと、どこから話そうかな……」
「あの子は一体誰なんだよ?」
それでも永は言葉を濁すので、蕾生はまず研究所で会った少女について問う。
「そうだね、まずはそこからだ。彼女はリン、今の名前は知らない」
「今の名前? どういう意味だ?」
「そのままの意味だよ、僕はまだあの子の今回の生については何も知らない。けど、リンはずっと前から僕たちの仲間なんだ」
開始早々から蕾生の頭の中は疑問符だらけになっている。ようやく返せたのはたった一言だった。
「ずっと、って?」
「うーんと、九百年……くらい?」
「は?」
「僕ら三人は、ずーっと昔から何度も転生を繰り返してる仲間なんだ」
「ええー……?」
漫画の話かな、と現実逃避したくなる思考を蕾生はなんとか押し込める。永の顔は冗談を言っているものではなかったから。
「よく知らんけど、それって仏教とかの考えだろ。それで言うと、人間は皆生まれ変わってるってことじゃねえの?」
「ああ、うん、まあそうだね。だけど僕らの場合はその転生の回数が尋常じゃない」
「ええー……?」
嘘だあ、と言いそうになったのを蕾生は飲み込んだ。永の顔はどんどん深刻さを増している。
「僕が知覚できてるだけでも、僕らが転生したのは約九百年間で三十四回」
「ちょ、っと待てよ。人の一生って昔でも五十年くらいはあるだろ。九百年で三十回以上ってことは単純に割っても……」
「そうだよ、ライ。冷静で嬉しいよ」
永は少し安心したような表情になって、蕾生の疑問にきっぱりと答える。
「僕らは若く死んで、すぐ生まれ変わる。そういう運命をずっと繰り返してる」
「──何故?」
「鵺に呪われているから」
ヌエ
ぬえ?
──鵺
初めて聞くはずの単語なのに、蕾生はその言葉の意味を知っていた。
何か、黒い、闇の中からやってくる、化物。奇妙な声。その獣を確かに知っている。
辺りが急に曇り始めた。冷たい風が吹く。それに煽られて羽ばたく鳥の、哀しい声が響いていた。
「ライくん、これから話すこと──驚くなって方が無理だと思うけど、出来るだけ落ち着いて聞いてくれる?」
「……わかった」
「途中でなんか変な感じがするとか、具合が悪くなったら絶対言って」
「あ、ああ……?」
蕾生の体の頑丈さは充分知っているはずなのに、今日は朝から随分体調を気にするなと思った。だが、そう言う永の顔がとても真剣で少し怯えているようなので、蕾生は大きく頷いた。
「ええっと、どこから話そうかな……」
「あの子は一体誰なんだよ?」
それでも永は言葉を濁すので、蕾生はまず研究所で会った少女について問う。
「そうだね、まずはそこからだ。彼女はリン、今の名前は知らない」
「今の名前? どういう意味だ?」
「そのままの意味だよ、僕はまだあの子の今回の生については何も知らない。けど、リンはずっと前から僕たちの仲間なんだ」
開始早々から蕾生の頭の中は疑問符だらけになっている。ようやく返せたのはたった一言だった。
「ずっと、って?」
「うーんと、九百年……くらい?」
「は?」
「僕ら三人は、ずーっと昔から何度も転生を繰り返してる仲間なんだ」
「ええー……?」
漫画の話かな、と現実逃避したくなる思考を蕾生はなんとか押し込める。永の顔は冗談を言っているものではなかったから。
「よく知らんけど、それって仏教とかの考えだろ。それで言うと、人間は皆生まれ変わってるってことじゃねえの?」
「ああ、うん、まあそうだね。だけど僕らの場合はその転生の回数が尋常じゃない」
「ええー……?」
嘘だあ、と言いそうになったのを蕾生は飲み込んだ。永の顔はどんどん深刻さを増している。
「僕が知覚できてるだけでも、僕らが転生したのは約九百年間で三十四回」
「ちょ、っと待てよ。人の一生って昔でも五十年くらいはあるだろ。九百年で三十回以上ってことは単純に割っても……」
「そうだよ、ライ。冷静で嬉しいよ」
永は少し安心したような表情になって、蕾生の疑問にきっぱりと答える。
「僕らは若く死んで、すぐ生まれ変わる。そういう運命をずっと繰り返してる」
「──何故?」
「鵺に呪われているから」
ヌエ
ぬえ?
──鵺
初めて聞くはずの単語なのに、蕾生はその言葉の意味を知っていた。
何か、黒い、闇の中からやってくる、化物。奇妙な声。その獣を確かに知っている。
辺りが急に曇り始めた。冷たい風が吹く。それに煽られて羽ばたく鳥の、哀しい声が響いていた。