「なあ、(はるか)
 
 研究所を出てから黙ったままの永に、蕾生(らいお)はたまらず声をかける。そんな蕾生の気持ちを察して、永はにこりと笑って言った。
 
「うん。とりあえず公園まで戻ろう」
 
 まだ昼過ぎの陽も高い時刻。研究所から遠ざかる程に公園で休日を楽しんでいる人の声が大きくなってきて、安心を求める蕾生の足取りはいっそう早くなった。
 

 
 公立の森林公園は、マラソンコースが複数あり、ドッグランも併設されている、ちょっとした行楽地として地元民に親しまれている。
 今日は連休なのでバーベキューをしている家族連れもいた。大人は食べて飲んで、子どもはバドミントンなどで遊ぶ、そんな典型的な休日の風景が二人の目の前に広がっている。
 
 先程までいた環境とまるで違う景色だ、と蕾生は改めて思う。こうしてベンチに座っているだけでも人々の息遣いを感じられてなんだか安心する。
 隣に座っている永はまだ何も話さない。じっと何かを考えこんでいるようなので、その口から語られることはきっととんでもないことなのだろう、と蕾生は少し緊張してきた。
 
「なんかさ、お腹空かない?」
 
「へ?」
 
 予想に反して永の口からは暢気な言葉が出て、蕾生は変な声が出てしまった。
 
「そうかな……そうかも?」
 
 研究所の食堂で食べてからそんなに時間は経っていないが、急いで食べたからかあまり食事をしたという認識がないことに気づく。
 
「待ってて、そこでたこ焼き買ってくる」
 
 永は笑いながら数メートル先の広場に向かって歩いていった。そこでは屋台がいくつか出ており、なかなかの賑わいを見せている。

 
  
「はい、今日付き合ってくれた御礼ね」
 
「あ、ああ」
 
 永はたこ焼きを二パックとお茶のペットボトル二本を持って帰ってきた。渡されたたこ焼きは熱々でソースのいい匂いがしていた。
 
「高かったろ」
 
「ハハ、まあね。連休価格。でもいいじゃん」
 
 笑いながら永は自分の分のパックを開け、たこ焼きをひとつ楊枝で刺してそのまま口に運ぶ。
 
「んー、うまい。やっぱさあ、与えられる食事よりも自分で調達してきたものの方が美味しいね」
 
「お前、それ母ちゃんには言うなよ?」
 
「やだなあ、お母さんのご飯は別! それ言っちゃうとたこ焼き買ったのだってお小遣いだしね!」
 
 気分的なものでしょ、と永は笑うので蕾生も今はたこ焼きを食べることに専念することにした。青空の下で友達と買い食いするより美味しいものはないと思いながら。

 熱いたこ焼きをじっくり味わって食べ、ようやく一息ついた心地になった頃、永が意を決したように口を開いた。