「なるほど。慧心弓のヒントがそこにあると踏んでいるんだね?」
「そう。あの弓は長い間雨都家で保管されてたし、前々回あれを実際に扱ったのは楓サンだった。僕らは彼女がその後どうなったか知らなくちゃならない。弓の行方も含めて」
皓矢と永の会話は淀みなく必要最小限の言葉でなされていく。やはり銀騎の鵺に対する探究心は相当深いようだ。味方になってくれて良かったと蕾生は内心思っていた。それを永に言うと多分怒るので言わないが。
「あの鏃を調べたところ、やはりキクレー因子が検出された。共鳴させようとすればあれは弓への探知器になるかもしれない。少し待って欲しい、もうすぐおおよそのデータがとり終わる。出発前には渡せるようにしておくよ」
「わかった。よろしく頼むよ」
「現地に行ってもたまに連絡をくれると嬉しい。何か必要なものがあればすぐに用意する」
「そう? じゃあ、遠慮なくこき使わせてもらおうっと!」
何か難しそうなことを話している二人の会話をおいて、蕾生には少し気にかかることがあった。
「……」
「? なあに、蕾生くん?」
その視線に気づいた星弥が蕾生に話しかけた。
「いや、てっきり鈴心についていくって言うかと思って」
「やだあ、鋭い! ──でも今回はわたしも違う用事があるんだ」
蕾生に自分の行動パターンを理解されていたことに驚きつつも喜んだ後、少し落ち着いた顔で星弥は首を振った。
「?」
「あのね、わたし、陰陽師の修行をさせてもらえることになったの」
そう言う顔は少し誇らしげだった。それまで蚊帳の外に置かれていた身を嘆くことをやめ、星弥も前へ進もうとしている。
「体内のキクレー因子の制御の仕方と一緒にね、基本的なことを兄さんから習うんだ」
「そう、か」
良かったな、と言う言葉は今の彼女には無礼に思えて蕾生は語尾を控える。
そんな気持ちを察したのか星弥は明るい声で蕾生を指差しながら言う。
「だから、すずちゃんのことはよろしくね! 絶対危険なことさせないでね! 帰ってきた時に擦り傷なんかあったら許さないんだから!」
「──わかった」
星弥には何もわからないなりにそれまで懸命に鈴心を守ってきた自負がある。それを蕾生は託された。力強く頷くと、星弥は満足げに笑っていた。
「蕾生くん、今、調整を急いでいるものがある。それも出発前に君に渡したい」
永と打ち合わせを終えたらしい皓矢が、蕾生にも声をかけた。
「何を調整してるんだ?」
「君に必要なものさ」
にっこり笑って「お楽しみに」という笑顔は何も裏がない、頼もしいものだった。
「そう。あの弓は長い間雨都家で保管されてたし、前々回あれを実際に扱ったのは楓サンだった。僕らは彼女がその後どうなったか知らなくちゃならない。弓の行方も含めて」
皓矢と永の会話は淀みなく必要最小限の言葉でなされていく。やはり銀騎の鵺に対する探究心は相当深いようだ。味方になってくれて良かったと蕾生は内心思っていた。それを永に言うと多分怒るので言わないが。
「あの鏃を調べたところ、やはりキクレー因子が検出された。共鳴させようとすればあれは弓への探知器になるかもしれない。少し待って欲しい、もうすぐおおよそのデータがとり終わる。出発前には渡せるようにしておくよ」
「わかった。よろしく頼むよ」
「現地に行ってもたまに連絡をくれると嬉しい。何か必要なものがあればすぐに用意する」
「そう? じゃあ、遠慮なくこき使わせてもらおうっと!」
何か難しそうなことを話している二人の会話をおいて、蕾生には少し気にかかることがあった。
「……」
「? なあに、蕾生くん?」
その視線に気づいた星弥が蕾生に話しかけた。
「いや、てっきり鈴心についていくって言うかと思って」
「やだあ、鋭い! ──でも今回はわたしも違う用事があるんだ」
蕾生に自分の行動パターンを理解されていたことに驚きつつも喜んだ後、少し落ち着いた顔で星弥は首を振った。
「?」
「あのね、わたし、陰陽師の修行をさせてもらえることになったの」
そう言う顔は少し誇らしげだった。それまで蚊帳の外に置かれていた身を嘆くことをやめ、星弥も前へ進もうとしている。
「体内のキクレー因子の制御の仕方と一緒にね、基本的なことを兄さんから習うんだ」
「そう、か」
良かったな、と言う言葉は今の彼女には無礼に思えて蕾生は語尾を控える。
そんな気持ちを察したのか星弥は明るい声で蕾生を指差しながら言う。
「だから、すずちゃんのことはよろしくね! 絶対危険なことさせないでね! 帰ってきた時に擦り傷なんかあったら許さないんだから!」
「──わかった」
星弥には何もわからないなりにそれまで懸命に鈴心を守ってきた自負がある。それを蕾生は託された。力強く頷くと、星弥は満足げに笑っていた。
「蕾生くん、今、調整を急いでいるものがある。それも出発前に君に渡したい」
永と打ち合わせを終えたらしい皓矢が、蕾生にも声をかけた。
「何を調整してるんだ?」
「君に必要なものさ」
にっこり笑って「お楽しみに」という笑顔は何も裏がない、頼もしいものだった。