舞台俳優のような仰々しさで詮充郎(せんじゅうろう)は高らかに宣言し、萱獅子刀(かんじしとう)に白い石飾りを掲げ合わせる。すると石が白く光り、続いて刀身が輝き始めた。
 
「うっ──」
 
星弥(せいや)!?」
 
 その声をいち早く察知して鈴心(すずね)が寝ている星弥に駆け寄った。
 
「あ、あ、あああああ──!」
 
 意識もないまま、苦痛に顔を歪ませて叫ぶ星弥を見て、鈴心は金切り声を上げる。
 
「星弥ァ──!」
 
 このまま何も出来ずに星弥を失うしかないのか。皓矢(こうや)(はるか)も打開策を必死に考える。その間も星弥は悲鳴とともに苦しみ続けた。
 
 その苦痛を与えているのは、祖父であるという残酷な事実。そこに星弥も詮充郎も気づかない。悲劇を通り越して地獄のようだった。
 
「ふふ……いいぞ、もうすぐだ」
 
 期待を込めて星弥を見守る詮充郎の腕を、突然力強く掴む者がいた。
 
「どうした?ケモノの王よ」
 
 蕾生(らいお)は詮充郎の手首を、骨が軋むほど握る。
 
「ふざけるな……あいつの生命(いのち)はお前のものじゃない……」
 
 その顔は怒りに燃えており、髪の毛が逆立つほどのオーラを放っていた。黒く、とても禍々しい。
 
「いけない、ライくん!落ち着け!」
 
 しまった、と永は思った。
 星弥を助けることに集中し過ぎて蕾生に気を配ることができていなかった。優しい蕾生がこんな状況下で何をするかは、容易く予想できたのに。
 
「ぐああっ!」
 
 詮充郎が痛みのあまり刀を握る力を緩めると、蕾生はそれを奪い取って力任せに床に投げ捨てた。
 
「なっ──」
 
「あいつの生命(いのち)も、俺達の運命も!お前が好きにしていいものじゃない!」
 
 蕾生は怒りに任せて怒鳴り散らす。眼前の詮充郎に対してどんどんとそのボルテージを上げていった。
 
「ライ!!」
 
「お前は、許さないッ!!」
 
 もう、永の声も届いていなかった。蕾生を取り巻く黒いオーラは次第に靄のようにはっきりと目に見えるようになり、雲のような形を成していく。
 
「ライ!よせ!」
「ダメ、ライ!」
 永と鈴心は同時に蕾生の元へ走る。
 
「うわあっ!」
「ああっ!」
 だが、既に蕾生の全身は黒雲に覆われてしまい、その黒雲に二人とも弾かれた。

  
「お祖父様!」
 
 蕾生のすぐ側にいた詮充郎をタックルするように皓矢が覆い被さり、そのまま数メートル離れる。
 
「あ、ああ……」
 
「これは──」
 
 詮充郎は苦しげに喘ぎながらも目の前で晴れていく黒雲に歓喜の眼差しを投げた。
 皓矢は初めて感じるソレの禍々しい気配に顔を強張らせる。
 
「ああ、これだ──私が待ち望んだ……遂にもう一度まみえることができる。ケモノの王!」
 
 頭は猿、胴体は猪、尾は蛇、手足は虎。
 そこにいる獣は紛れもなく、(ぬえ)だった。