穏やかな様子も束の間で、また思い出したように詮充郎(せんじゅうろう)は憎しみを吐露する。
 
「だが、その矢先に分家の分際で御堂(みどう)が裏切った。その裏にはお前達がいたな」
 
「前回の転生のことだな」
 
 視線を向けられた永が答えると、永に向けて指差しながら詮充郎は言う。
 
「私達親子は(ぬえ)に肉薄しながらも勝てなかった。紘太郎(ひろたろう)は重傷を負った。鵺と相打ちになったお前たちの亡骸を見て思ったよ。せめてこいつらの遺体は絶対に保存して隈なく研究し尽くしてやると! だが、それも半分は叶わなかった。死んだと思っていたリンが息を吹き返したことでな」
 
「──!」
 
 もたらされた事実に(はるか)が衝撃を受ける。その様を気にも止めず詮充郎は続けた。
 
「あの娘は私に取引きを持ちかけた。ハルとライはこのまま転生させろ、その代わり自分の身体を差し出すと」
 
「な──」
 
「私としてはとても美味しい話だったよ。生きた因子持ちのサンプルが手に入るのだから。だが、よく見ればリンも一時的に生き返っただけで、瀕死の状態だった」
 
 ここまで語った後、永に向けられていた視線をふと鈴心(すずね)に移して、詮充郎は呟くように言う。
 
「心配するな、私は約束は守る」
 
「え?」
 
 永がつられて鈴心(すずね)を見れば、とても青白い顔で自らを抱き締めるような格好で何かに耐えているように見えた。
 だが、詮充郎が間髪入れずにまた話し始めたのでそちらに意識を集中させるしかなかった。
 
「そこで構想中だった試験管ベビーの研究を思い出した。死にゆくリンの魂を保存しておいて、実験用の卵子に憑依させリンの生まれ変わりを我が手中に収めることにした」
 
「そんなことが本当に可能だったのか?」
 
 事前に説明はされていたが、永はまだ半信半疑だった。リンの魂を受精卵に憑依させるなど、そんな冒涜的なことができてたまるかと思ってもいた。だが、詮充郎は得意げに両手を広げて大仰に言う。
 
「我が息子紘太郎にかかれば可能なのだよ! 紘太郎はすぐにリンの魂を抜き、一先ず家宝の幽爪珠(ゆうそうじゅ)に格納した。それから幽爪珠から魂を卵子に移す術式を私に託して、力尽きて死んだ」
 
「お父様は、その時に亡くなっていた……?」
 
 銀騎(しらき)紘太郎(ひろたろう)の死の真実を知り、星弥(せいや)は絶句する。詮充郎は明確な年代を言わないが、少なくとも十六年以上は前だろう。ならば自分はどうやって生まれたのかを考えた。
 皓矢(こうや)にその答えを求めたが、兄は何も言わずに星弥の手を優しく握る。詮充郎の嘆きの言葉はその間も続いていた。