願掛けするには1日早い

 合田さんと、長い間喋っていた。
 バイトのみんなが心配してたとか、この間の面白いお客さんがまた来たとか。
 星や星座や、流れ星の話とか。

 面会終了時間ギリギリまで話続けて、ようやく、家に帰ってきた。
 本当は、もっと話していたかった。
 もっとずっと一緒にいたかった。
 言いたいことはいくらでもあった。

 けれどやっぱり、時間は止まらない。
 ずるずるといつまでも星を見続けることはできないのと同じで、いつまでも話してはいられない。

 けれど、もう1度、星を見る約束ができたように。
 終わってしまうなら、もう1度始めればいい。

 合田さんは「また来てください。」と言ってくれた。
 そのまま来週も会う約束をして、別れた。

 合田さんは俺が出ていく瞬間、少し大きな声で言った。

 「今度は、嘘じゃないですよ。」

 と。

 鞄を片付け、上着をハンガーに掛け、勉強机の前に座る。
 隣の棚から問題集を取り出して、開いた。

 ――俺にできることは、何だってする。

 そう決意したが、俺にできることはそうそうない。
 だから、できることを増やすことにした。

 きっと俺は、おかしいと思う。
 努力の方向がずれていると思う。
 だけど、さっきの何気ないやり取りで、俺の進路が決まってしまった。

 医者でも、介護士でもなくて――管理栄養士。

 管理栄養士になって、合田さん――は無理でも、彼女のような人の助けになりたい。

 ずれていても、おかしくてもいい。
 俺の中ではこれは真っ直ぐで、まっとうな夢なんだ。

 勉強に取り掛かる前に、目を閉じて集中する。
 頭の中に、あの日1人で見た流星群の光景が映った。

 『流れ星は願い事を叶えてくれるって、言うじゃないですか。』

 ふと、合田さんが言っていたことを思い出した。

 ――将来、管理栄養士になれますように。

 なんて、脳裏に焼き付いた光景に願掛けしてみる。

 合田さんは、願掛けするには1()()()()()()けど。
 俺のは、()()()()()

 でも、いいんだ。

 本命の願掛けはいつか、合田さんと2人でするから。
 今度はちゃんと()()()()()()で。