寒さに震える冬。午後二十三時過ぎ。
 橋の下に黒く伸びる川が波打っている様子を見て、私はこのままあそこに飛び込んちゃおうと思った。
 いつも行ってる公園にブチがいなかったからだ。
 ブチだけが私の心の救いだった。
 この道は夜中になると車も歩行者もほとんど通らないから、死ぬのを邪魔する人間もいない。
 橋の手すりに足をかける。こんな時に限ってつるつるした材質のジャージを履いてきたから、足がうまく橋に乗らない。
 夜を反射して真っ黒にこちらを飲み込もうとする水面が怖くなり、目をそらした。
 決意が揺らぐ。
 早くしないと、死ぬ気がなくなってしまう。
 腕にもう一度力を込めた。中途半端にかけた足を今度こそ上げ手すりをまたごうとした、その時。
 ガッ、強く誰かに腕を引っ張られた。強すぎる力に引きずり降ろされて、硬い地面に腰を打ち付ける。
 真横で、誰かが私と同じように尻餅をついた。多分、私を橋の手すりから引きずり降ろした張本人だろう──。
「──きみ、大丈夫!?」
 低い声とともに、俯いていたその人が顔を上げた。荷物を腕に中途半端に引っ掛けたまま、こっちに顔を近づけてくる。
 顔が橋の上の外灯にちらりと照らされた瞬間、ぐっと息が詰まる。
 男、だ。
「……」
 その人の性別を知った途端、相手の顔の形を知るよりも先に──怖さで震え上がった。