それは一重に彼から預かった台本が、私達に確かな繋がりをもたらした。
彼は一定の間隔で会いにやって来た。何か特別なことをするわけじゃなかった。
ただ他愛の無い話をして、お茶を飲み、本を読んで。
いつの間にか私はすっかり諦めてしまい、一緒に過ごす時間を受け入れていた。
彼が居鶴の話題を出すと、自分も少しなら許される気がして、その時間だけはかつての思い出に浸る。
もちろん悲しみで押し潰されそうになるが、同時にかけがえのない時間だったと思い出させてくれた。
――けれど私は決して忘れていなかった。
たとえ、どれほど燐灯が私の世界に入ってこようとも、あの言葉を。
「これはキミがこれからの人生で『最も幸福を感じた時』に恐ろしい悲劇を迎える、そんな呪い」
――ずっと後悔している。
燐灯とはもっと早く縁を切っておくべきだった。
そうすれば「悲劇」に彼が巻き込まれることは無かっただろう。
燐灯と出会って、いくつも季節は巡った。
相変わらず、私たちは一定の距離を保ちながら付き合いを続けていた。
親しくなればなるほど、呪いの危険は高まる。
このことを話したりは勿論しなかったが、燐灯は私が抱く懸念を汲んでいたかのように、一線を越えることはしなかった。
だから安心し切って、油断を招いた。
心の準備を待たず、かねてより夢だと語っていた「いつか」が突然やってきたのだ。
決して突発的に叶ったわけではない。ただ彼は自身の苦労話など全くしなかった。
だから役者業が軌道に乗っていたことも、実はあの台本の舞台が実現しつつあったことも、その日に聞かされた。
「驚いた?」
「……驚きすぎて、頭が追いつかない」
「あんなにはっきり宣誓しておいて、叶えないのは格好つかないでしょう?」
「すごいね、私何も知らなくて……」
「そりゃあ秘密にしていたから」
「そっか。燐灯頑張ったんだね、本当におめでとう」
「ありがとう。安心したよ」
「安心?」
「うん。嬉しそうな顔が見られて」
「そんな顔してない」
「強情だなぁ。……鏡、見てご覧よ」
「絶対見ない」
「いいよ、これからも僕にだけ見せていれば」