「もう、長くはないでしょう」
申し訳なさそうに言う病院の先生。
ごくり、とお兄ちゃんが息をのむ音。
その瞬間、私の時間が、すべて止まった気がした。
そのあとは、少し強引に母に海外に向かわされ、治療も何回も受けた。
それでも治ることのないこの病気に、母は、「ただ金を使わせる最悪な病気」と言っていたのを聞いた。
だから、家では明るく振舞った。
そんな家族を、少しでも笑顔にさせれるように。
それでも、お母さんは一度も笑わなかった。
お兄ちゃんは、少しふざけたりしたら、笑ってくれることもあったけれど、それでもただの愛想笑いだけ。
なによ、それ。
私の心の中は、不満でいっぱいだった。
本当につらいのは、私なのに。
ずっと一人で居るなんて、寂しいと思わないの。
みんなに迷惑をかけてるのは、本当に私なの?
私って、生まれてこないほうが、よかった…?
何度も自分に聞いては、ことごとく答えを見るのを拒否される。
そんな、暗い毎日だった、はずなのに。
ある日私は、海外から戻って、引っ越してきた家から抜け出した。
つらくて、苦しくて。
だから、元居た学校に行こうと思った。
きっと友達が、慰めてくれる。
久しぶりの学校の廊下は、前よりひんやりと冷たかった。
朝のホームルーム中に、ただひたすらに廊下を進んでいる女子生徒を、不思議な目で見ない生徒は、一人もいなかった。
それでも私は歩いた。
本当の、私がいるべきところへ。
「…あのぉ。二年三組って、ここですか?」
ほんとの自分を押し殺して、私はクラスに声をかけた。
するとたちまち人が集まって、傷ついた私の心を癒してくれるようになった。
そして…。
「蒼井北斗の隣だよ」
北斗、という言葉に、ハッとした。
ずっと私が恋していたのは、キミだったんだって。
しかも、放課後私を描いていてくれた、なんて知って、家に帰って飛び上がって喜んで。
何度もガッツポーズして。
絵を描いてもらうたび、彼への恋心は高まっていって。
いつしか、どうしようもなく、愛していた。
彼を、心から。
でも、そんな幸せな日々にも、終わりが訪れた。
「…あと、もって数ヶ月です。来年の冬は、越せないと思ってください」
「っ…そんなっ」
突きつけられた現実。
突きつけられた事実。
しにたくないって思ってしまう。
どうしようもなく。
彼ともっと居たい。
ずっと一緒に生きていたい。
…でも、どうやら私には、もう時間は残っていないみたい。
彼に告白された日、どれだけ私の心が破裂しそうだったか。
もう悔いはないって、思ったことか。
それでも私は、うそをついた。
彼を、守るための、大切な役割を持つウソ。
「今はもう、好きじゃない」
自分でいったくせに、グサッと胸に突き刺さってしまった。
その日の夜、いろいろ遊んでいたのがお母さんにバレて、また私は牢獄の中へ入れられた。
寒くて、つらくて、どうしようもなくて。
日が昇って、また落ちて、そんな日々が続いた。
そんな日、病院に行っていたのがばれてしまい、追い詰められた。
本当に、今でも最低なことを言ってしまっていたと自覚している。
どれだけ彼を傷つけたか、考えるだけで恐ろしい。
忘れてくれ、と言われたとき、どれだけ絶望感を感じたか。
キミは知らないでしょう?私の思いを。
こんなにもキミを愛しているというのに、キミは知らん顔で絵を描いているんだもん。
文句の一つも言いたくなる。
キミは思ってたより根暗で、地味で、ひよわだった。
そして、キミは思ってたように、優しくて、勇気があって、格好良くて。
気づけばもう、これを恋だと呼べなくなり、愛というようになってしまって。
「大好きだよ」
カセットテープに保存した私の声。
テープをノートに入れて、そっと閉じる。
ねえ、キミは。私が死んだら、どういう顔をするんだろう?
悲しむかな。
寂しがるかな。
それとも、笑って生きてくれるかな。
考えるだけで、涙があふれてきちゃう。
ほんとは私が、ずっと一緒に居たいくせに。
ふふっ、と微笑んで、私はもう一度だけつぶやく。
「大好きだよ、北斗くん」
今度はキミの名前も入れて。
ねぇ、北斗くん。
本当に、私は幸せだったよ。
だから今度はキミの番。
絶対に、幸せになってね。
そう思いながら、瞼を閉じた私。
それから、一生覚めることはない眠気に襲われた。
それでも、私はきっと彼の絵の中で、生き続ける。
彼の心の中で、ずっと生き続けられる。
そう確信して、私は笑った。
それは、私が生きてきて、一番の、”本当の、笑い“だった。
―ねぇ、北斗くん。世界で一番、キミが大好きだったよ。
「…月?」
もう今はない感覚の中、いとおしい彼の声が聞こえる。
ゆっくり瞼を開けると、彼は涙を流して、座り込んでいた。
地面に立っている感覚もない私は、ニコリ、と彼に微笑みかけ、神様にありがとう、と感謝した。
「ただいま、北斗くん」
ただ、今だけは。
今だけは、神様、ちゃんと見ていてね。
手違いで、消えさせちゃわないでよ。
あの朝日が昇るまで、私はきっとうそをつく。
ニセモノの笑顔を張り付けて。
それでも彼はきっと、私を愛してくれる。
ずっと彼の心の中に、私をいさせてくれる。
これからも、彼は私を描いてくれる。
だから、これだけは、彼に伝えさせて。
目を見て、きちんと言いたい。
私は口を開いて、あのときのように、“本当の笑み”を浮かべた。
「大好きだよ…、北斗くん」
さようなら。
今日も明日も来年も、キミはちゃんと生き続けてね。
それじゃあ、ばいばい。
私はもう一度目を閉じて、彼とお別れした。
さようなら。私が大好きなキミへ―。
って、ちょっと終わりそうな感じ出したけど、あとちょっとだけ、時間ください!!
北斗くん!!聞こえてますか?あなたが愛した夜空月だぞー!
もちろん覚えているよね。キミの初恋の相手だもんね。
ささ、本題に移りましょう!!
さっき、「ほかの誰かを描いても―」みたいなこと言ったけど、アレ撤回!!
キミのモデルは私だけ!
私を描く画家はキミだけ!
だからぜったい、ほかの人なんか描かないで。
私だけを描いてね!!
分かった?わかったね。じゃあ、最後に。何度も言ったけど。
「…大好きだよ。つらいけど、明日もちゃんと生きて、何十年後かに、私に胸を張って会いに来てね!私、ずぅっと天国で待ってますから!」
なーんちゃって。ってことで、この物語はこれでお終い。
続きが見たいなーって方は、ぜひ私を推してね!
それじゃ、ほんとに最後に。
私の思いを聞いてくれてありがとうございます。
最期まで読んでいただいて、本当にありがとうございます!
申し訳なさそうに言う病院の先生。
ごくり、とお兄ちゃんが息をのむ音。
その瞬間、私の時間が、すべて止まった気がした。
そのあとは、少し強引に母に海外に向かわされ、治療も何回も受けた。
それでも治ることのないこの病気に、母は、「ただ金を使わせる最悪な病気」と言っていたのを聞いた。
だから、家では明るく振舞った。
そんな家族を、少しでも笑顔にさせれるように。
それでも、お母さんは一度も笑わなかった。
お兄ちゃんは、少しふざけたりしたら、笑ってくれることもあったけれど、それでもただの愛想笑いだけ。
なによ、それ。
私の心の中は、不満でいっぱいだった。
本当につらいのは、私なのに。
ずっと一人で居るなんて、寂しいと思わないの。
みんなに迷惑をかけてるのは、本当に私なの?
私って、生まれてこないほうが、よかった…?
何度も自分に聞いては、ことごとく答えを見るのを拒否される。
そんな、暗い毎日だった、はずなのに。
ある日私は、海外から戻って、引っ越してきた家から抜け出した。
つらくて、苦しくて。
だから、元居た学校に行こうと思った。
きっと友達が、慰めてくれる。
久しぶりの学校の廊下は、前よりひんやりと冷たかった。
朝のホームルーム中に、ただひたすらに廊下を進んでいる女子生徒を、不思議な目で見ない生徒は、一人もいなかった。
それでも私は歩いた。
本当の、私がいるべきところへ。
「…あのぉ。二年三組って、ここですか?」
ほんとの自分を押し殺して、私はクラスに声をかけた。
するとたちまち人が集まって、傷ついた私の心を癒してくれるようになった。
そして…。
「蒼井北斗の隣だよ」
北斗、という言葉に、ハッとした。
ずっと私が恋していたのは、キミだったんだって。
しかも、放課後私を描いていてくれた、なんて知って、家に帰って飛び上がって喜んで。
何度もガッツポーズして。
絵を描いてもらうたび、彼への恋心は高まっていって。
いつしか、どうしようもなく、愛していた。
彼を、心から。
でも、そんな幸せな日々にも、終わりが訪れた。
「…あと、もって数ヶ月です。来年の冬は、越せないと思ってください」
「っ…そんなっ」
突きつけられた現実。
突きつけられた事実。
しにたくないって思ってしまう。
どうしようもなく。
彼ともっと居たい。
ずっと一緒に生きていたい。
…でも、どうやら私には、もう時間は残っていないみたい。
彼に告白された日、どれだけ私の心が破裂しそうだったか。
もう悔いはないって、思ったことか。
それでも私は、うそをついた。
彼を、守るための、大切な役割を持つウソ。
「今はもう、好きじゃない」
自分でいったくせに、グサッと胸に突き刺さってしまった。
その日の夜、いろいろ遊んでいたのがお母さんにバレて、また私は牢獄の中へ入れられた。
寒くて、つらくて、どうしようもなくて。
日が昇って、また落ちて、そんな日々が続いた。
そんな日、病院に行っていたのがばれてしまい、追い詰められた。
本当に、今でも最低なことを言ってしまっていたと自覚している。
どれだけ彼を傷つけたか、考えるだけで恐ろしい。
忘れてくれ、と言われたとき、どれだけ絶望感を感じたか。
キミは知らないでしょう?私の思いを。
こんなにもキミを愛しているというのに、キミは知らん顔で絵を描いているんだもん。
文句の一つも言いたくなる。
キミは思ってたより根暗で、地味で、ひよわだった。
そして、キミは思ってたように、優しくて、勇気があって、格好良くて。
気づけばもう、これを恋だと呼べなくなり、愛というようになってしまって。
「大好きだよ」
カセットテープに保存した私の声。
テープをノートに入れて、そっと閉じる。
ねえ、キミは。私が死んだら、どういう顔をするんだろう?
悲しむかな。
寂しがるかな。
それとも、笑って生きてくれるかな。
考えるだけで、涙があふれてきちゃう。
ほんとは私が、ずっと一緒に居たいくせに。
ふふっ、と微笑んで、私はもう一度だけつぶやく。
「大好きだよ、北斗くん」
今度はキミの名前も入れて。
ねぇ、北斗くん。
本当に、私は幸せだったよ。
だから今度はキミの番。
絶対に、幸せになってね。
そう思いながら、瞼を閉じた私。
それから、一生覚めることはない眠気に襲われた。
それでも、私はきっと彼の絵の中で、生き続ける。
彼の心の中で、ずっと生き続けられる。
そう確信して、私は笑った。
それは、私が生きてきて、一番の、”本当の、笑い“だった。
―ねぇ、北斗くん。世界で一番、キミが大好きだったよ。
「…月?」
もう今はない感覚の中、いとおしい彼の声が聞こえる。
ゆっくり瞼を開けると、彼は涙を流して、座り込んでいた。
地面に立っている感覚もない私は、ニコリ、と彼に微笑みかけ、神様にありがとう、と感謝した。
「ただいま、北斗くん」
ただ、今だけは。
今だけは、神様、ちゃんと見ていてね。
手違いで、消えさせちゃわないでよ。
あの朝日が昇るまで、私はきっとうそをつく。
ニセモノの笑顔を張り付けて。
それでも彼はきっと、私を愛してくれる。
ずっと彼の心の中に、私をいさせてくれる。
これからも、彼は私を描いてくれる。
だから、これだけは、彼に伝えさせて。
目を見て、きちんと言いたい。
私は口を開いて、あのときのように、“本当の笑み”を浮かべた。
「大好きだよ…、北斗くん」
さようなら。
今日も明日も来年も、キミはちゃんと生き続けてね。
それじゃあ、ばいばい。
私はもう一度目を閉じて、彼とお別れした。
さようなら。私が大好きなキミへ―。
って、ちょっと終わりそうな感じ出したけど、あとちょっとだけ、時間ください!!
北斗くん!!聞こえてますか?あなたが愛した夜空月だぞー!
もちろん覚えているよね。キミの初恋の相手だもんね。
ささ、本題に移りましょう!!
さっき、「ほかの誰かを描いても―」みたいなこと言ったけど、アレ撤回!!
キミのモデルは私だけ!
私を描く画家はキミだけ!
だからぜったい、ほかの人なんか描かないで。
私だけを描いてね!!
分かった?わかったね。じゃあ、最後に。何度も言ったけど。
「…大好きだよ。つらいけど、明日もちゃんと生きて、何十年後かに、私に胸を張って会いに来てね!私、ずぅっと天国で待ってますから!」
なーんちゃって。ってことで、この物語はこれでお終い。
続きが見たいなーって方は、ぜひ私を推してね!
それじゃ、ほんとに最後に。
私の思いを聞いてくれてありがとうございます。
最期まで読んでいただいて、本当にありがとうございます!