朝日が少し上ってきたころ、ガサ…と後ろから音が聞こえ、ばっとふりむいた。
息をのんだ。すべての時間が、時計が、一瞬止まったように思えた。
息だって、しているかどうか関係ない。
だってここには、彼女がいる。
そこには、会いたくて会いたくてたまらない、月がいたんだ…。
「月…!!!」
こんなこと、おこるはずない。
夢だと思う。
それでも、今だけは…
今だけは…!!
この時間だけは、月と一緒に居たい。
「ただいま、北斗くん」
優しく笑った月に、俺はぎゅぅと胸を締め付けられた。
「月…月…!!」
「ふふ。北斗くん、泣いてばっかりだね。もう。私の手紙をよんだくせにさ」
あはは、と笑った月は、やっぱり本物の月だった。
「月は、生き返ったのか…!?生きていたんだよな?だから今ここにいるんだろう?」
「…ごめんね。私は生きてるわけじゃないんだ」
俺は月に手を伸ばそうとして…止めた。
「……私に、生きててほしかった?」
沈黙の中、ボソッと月が言った。
「…」
本当は、うん、と答えたい。
生きていてほしかった、と言いたかった。
それでも、そんなこと言えば、きっと月は悲しいと思うだろう。
そんなこと言われても…と俺でも思ってしまうから。
「月の笑顔が見れなくなるのは、寂しい」
震えた声で、月に言った。
「…そっか」
月は笑った。
ニコリと、あの、優しい笑顔で。

「もうすぐ朝だね」
月がつぶやいたように言った。
「会えてうれしかったよ。北斗くん。ばいばい」
軽い感じで手を振った月に、俺はこらえきれなかった。
「月…」
「なあに、北斗くん」
「月」
「なあーに」
呼べば答えてくれる、月がいる。
優しく笑ってくれる、月がいる。
「る…」
「好きって言ったら、キミも好きって言ってくれる?」
遮られた言葉に、重なった言葉。
これが最後なんだな、と思った。
日が俺の後ろに来て、俺の目の前に影がでた。
俺は優しく笑って、うん、と答えた。
「……これが、最後だよ」
月がつぶやいて、悲しそうに笑った。

そのあとは、全然覚えていない。
うろ覚え、という感じだった。
月と俺は笑いあっていた。
気づくと月は消えていた。
ニコリ、と笑った月の顔が、今でも鮮明にわかる。
気づけば、ゆきが座り込んでしまった俺の膝に乗っていた。
「会えましたか?月さんに」
「…ゆき。どうすればいいだろう」
「どうしたんですか」
「……月に会いたいんだ。どうしようもなく」
ぽつりとこぼした言葉は、海に落ちていった。
「北斗さんは生きるんでしょう?」
「…生きる。生きるよ」
すぅっと息を吸う音と共に、風が俺のほほをなでた。

なぁ、月。俺はキミがいない世界で、うまく生きられるかな。
キミがいない、真っ暗な世界で、また愛する人と出会えるかな。
たびの奥、ずぅっと先で、キミは待っていてくれているのかな。
俺はまたキミと会うとき、笑って会えるだろうか。

ナーン
猫が鳴いた。
その瞬間、パッと俺の頭に、涙を流しながら笑った、月の顔が浮かび上がった。
そして、“大丈夫。キミならできる”と耳元で聞こえてきた言葉。
大丈夫。
そうだ。俺ならできる。
きっと、月にまた会えるんだ…。













この物語は、つらい、苦しいと思っているときに書いた小説です。
少しでも、誰かの心に響きますよう、願っています。