規格外のバケモノがいる。

 男たるもの、そんな噂が聞こえてくれば心が躍るものだ。

 筋骨隆々の男たちがひしめきあう酒場では、様々な噂話が飛び交う。

 各地からやってきた腕自慢たちで、王都近辺に出没する魔獣の駆除で生計を立てている者ばかりだ。

 人間以外の種族すら珍しくない王都の酒場である。

 近頃、食べたこともないような美味な料理を出すようになったと評判だ。

 その片隅で保護者に連れられた男児がちょこんと座って食事をしている。獣人族なんかよりも、ずっと珍しい客だ。

 年の頃は、六才か七才か。

 身なりも整っているし、つやつやの黒髪にふにふにでバラ色のほっぺた。つまりは、ずいぶんと可愛らしい顔をしている。

 服装から男児とわかるが、もしかしたら女の子だと間違われることもあるかもしれない。

 男の子の足元では、これまたお行儀よく犬が丸まっている。

 だが、常連たちの視線は冷たい。

 たしかに場違いな食事客だが、幸いとても行儀のいい子どもだった。

 ジョッキをぶつけ合う客たちが、彼の存在にクレームをふっかける隙がないのだ。

「知ってるか? 北の大魔導師が弟子をとったって」

「あの堅物が!? 才能なきものは去れ、とかいって王立学院主席のガキを追い返したやつだろ」

「で、なんでもその弟子ってのが十才にもならないガキらしい」

「ははは、冗談だろ?」

「で、王太子殿下にも気に入られてて」

「ますます眉唾だな」

「噂によればだが、精霊の加護をうけた特別な子どもで、しかも! あの伝説的な最強の戦士……グラナダスの隠し子だとか」

「設定盛るのもいい加減にしろよな、嘘つけタコ」

「本当なんだって! 珍しい黒髪で、犬っころをつれてるらしい」

「黒髪で、犬を……?」

 たしか、そんな子どもをどこかで。

 全員の視線が、騒がしい酒場の片隅に注がれる。

 カウンターの隅で、見たこともない料理を食べている子どもがピタリと動きを止めた。

「……ぼくに、なにかごようですか?」

 きょとん、としている子どもに酒場の男たちは一斉に毒気を抜かれたようになる。なんだ、思い過ごしか。

「いや、なんでもねぇよ。飯食ってるとこ邪魔して悪かったな」

「とんでもない。ぼくのほうが、おじゃましていますので」

「ははは、こりゃできたガキんちょだ。どっから来たんだ」

「えっと、やまおくから」

「へえ、一家で王都に出稼ぎかい。一杯おごってやろうか」

「おさけはのめませんっ」

 どっと場が湧いて、客たちの意識は可愛らしい坊やから、色気をただよわせた酒場の娘たちに移ってしまった。



「……あぶなかったぁ」



 ほっ、と黒髪の男児──噂の中心だった規格外のバケモノことユウキは、安堵の溜息をついた。

 あぶない、あぶない。

 王太子殿のお忍びでの裏路地飲み歩きについてきてみたけれど、なんだか大変なことになってしまっている。

「オトナになるのも楽じゃないな」

 ユウキはぽつんと呟いた。