剥き出の牙を剣で跳ね除けても、俺の切っ先は幸いブレる事はない。
思った程の衝撃では無いなと思ったのは、多分師との鍛錬のお陰だろう。
剣の師との訓練の日々は、実に過酷なものだった。
俺の剣の師・レングラムは、子供相手でも決して手を抜くことなどしない男だった。
そのお陰で俺は今までたったの一度だって、彼の膝に泥をつけた事が無い。
「レングラムとする時は、一撃から手が痺れるんだよなぁー……」
戦闘中であるにも関わらず、そんな事を呟く余裕は十二分に存在している。
彼との手合わせでは、まず一撃目で手が痺れる。
勝負はその後、どれだけ彼に打ち込めるのか。
今思えば、あれは『ベストじゃない状況下でどれだけ剣を振るえるか』という、自身の限界を超える為の訓練だったんじゃないだろうか。
きっとあれがあったからこそ、こんなにも魔物とも戦闘にも余裕が出ている。
手がしびれる事もない現状ではちょっと拍子抜けしたような気持ちになるが、今は後ろに守るべきモノがある。
余裕があるに越した事は無い。
と、そんな風に考えを纏めた時だった。
敵が「グァウッ!」と吠えながら、こっちに向かって飛び掛かってくる。
俺は瞬時に自分の中の力を練り上げ、まるで膜の張る様にそれを剣へと纏わせた。
そして。
「なるべく早く――片付ける!」
敵に向かって一閃する。
魔力を伴ったその斬撃は、魔獣の固い皮膚にも届く。
鋭くなった切っ先は容易に肌に傷をつけ、襲い掛かってきた最初の一匹が悲鳴のような声を上げた。
続けてもう一匹果敢な魔獣に一太刀浴びせる。
すると後の二匹はおそらく警戒心を抱いたのだろう、俺から距離を取った後今度は自身の中で力を練り始めた。
魔力だ。
今しがた自分がやったのと同じ原理。
しかしこの魔物たちは俺の様に武器に魔力をコーティングさせて攻撃するなどというまどろっこしい真似はしない。
(こちらが森林に被害を与えないようにと配慮しているのを良い事に……!)
魔法には様々な属性があるが、俺が得意とするのは火である。
氷の魔力を扱うコイツらとの相性はいい物の、だからといって考えなしにぶっ放せば周りの木々が焼け落ちる。
否、それだけならばまだ良い方だ。
最悪森は火事になるだろう。
そうなれば、森に住む獣たちは散り散りになり近くの町に被害が出るだろう。
もしかしたら、育った大火が町を襲う……という事もあるかもしれない。
どちらにしろ、それはマズい。
魔獣たちは、俺から距離を取って今正に練った魔力を解放しようとしているところだ。
この距離ならば、俺の剣は届かない。
しかし、切りかかりに行けばおそらく、魔法発動と同時に切りかかる事となる。
俺だけならばそれでも良かった。
しかし今、俺は後ろに庇うべきモノがある。
敵を倒した代わりに後ろで彼女が怪我を負うのはいけない。
「甘い」とか「物事にはある程度の犠牲がつきものだ」とかいうヤツは居るだろうが、俺自身が「それでは意味がない」と思うんだから仕方が無いのだ。
練り上げられた奴らの魔力が、ツララのような氷を幾つも作る。
何もなかったただの虚空に浮いたそれらはすぐさま俺目掛けて発射され、俺は密かに気合を入れた。
飛んでくる氷たちは、3匹分で計20弱。
それを真っ直ぐ見据えながら、俺は一言「『火よ退《しりぞ》けよ』」と詠唱する。
イメージは、火の壁だ。
それを一閃した刃の切っ先に『置いてくる』感覚で展開させれば、俺と魔獣の間の空間にほんの一瞬、高密度の炎が高く立ち上る。
それが盾になり、全ての氷が瞬間的に蒸発した。
すぐに下火になった火をまっすぐ突っ切り、地を強く蹴って天敵である炎に怯んだ敵たちの懐へと突っ込んで、敵影に一撃、二撃。
仕留めた時に「やはり首を狙うのが手っ取り早いな」と判断し、それ以降は一撃目で奴らの首を跳ね飛ばす。
それからは、実に楽な作業だった。
スパッ、スパッと斬り伏せて、あっという間に4匹全ての制圧は完了だ。
が、残念な事に周りの木々に火が燃え移っている。
思いの外高く大きくなってしまったあの火のせいだろう。
(苦手なんだよなぁー、剣と魔法の両立っていうのがさ)
そう思いながら、俺は「あー……」と頭を掻く。
昔から、何かを同時進行するのが苦手だった。
それも歳を重ねる事にマシになって来てたんだけど、剣と魔法の両立は今でも苦手で一緒にやろうとするとどうしても魔法の規模感とか狙いとかが中々定まりにくくなる。
それが今回、懸念していた事態を引き起こしそうになっているという訳だ。
仕方が無いので、《《ちょっとだけ》》手荒い真似で俺は対処する事にした。
まずは燃えている範囲の木々を剣でひとなぎ。
瞬間、俺を中心にした一帯がまるで伐採でもしたかのようにスパンッと根元近くから切れる。
さらにそれを切り刻み、地面に落ちる前に全てを風魔法でふわりと浮かせて空中一か所に集めるとスッポリ綺麗に水魔法で包んでやれば、燃え移った火は根本から、ジュゥッという呆気ない音を立てて消え失せた。
後処理までし終わって、俺はまるで準備運動を終えた様な疲労感で「ふぅ」と小さく息を吐く。
そしてクルリと踵を返し自分が背中に守っていた子に目を向けた。
剣を鞘に納めつつそちらに行けば、小さな体がもっとギュッと小さくなる。
多分警戒してるんだろう。
だけどとりあえず確認しないといけない事がある。
「怪我は……っと、擦りむいてるな」
ゆっくりとしゃがみ込んで呟いた。
見た所、そのくらいの怪我で済んでいるようだ。
でももしかしたら見えない所に打ち身があるかもしれないし、そうでなくとも見るからに精神的にも肉体的にも衰弱していた。
まぁそれも仕方がない。
だって、幾らニメートルほどのそう大きくない個体だったとはいえ、この子はまだ見た感じ6、7歳の子供なのだ。
彼女からしたら十分大きくて怖くて、そんなのから命かながら逃げておいて疲れない方がむしろおかしい。
「実はちょっと悩んだんだけど、王都で馬車に乗る前に携帯食と一緒に買っておいてよかったよ」
そう言いながらおもむろに、肩から下げていたカバンを開けてゴソリと探る。
そうやって取り出したのは、青い液体が入った小さな小瓶だ。
「とりあえずこのポーションな」
蓋を開けてやってから彼女に「飲んで」と言って渡せば、最初の内は窺うようにこちらを見ていたその子だったがやがておずおずと口をつける。
瞬間、彼女の体がボウっと光った。
それと同時に足についていた擦り傷が、まるで最初から無かったかのように全て消える。
おそらく彼女も自身の体で、何かしらの効果を実感をしたんだろう。
驚いた顔で手をワキワキとし始めた彼女の様子に、「もしかしてポーションを飲んだの初めてなのか?」と思ってしまう。
というのも、一番ランクの低い低級ならばポーションなんてそう珍しいものじゃない筈なのだ。
中でも粗悪品に至っては、平民でも十分手が出せる金額だ。
確かに効果は薄いけどそれでもちょっと怪我なら直せるので、粗悪品には粗悪品の需要が十分にある。
だからこのくらいの年の子がポーションの効果を珍しがるなんて、滅多に無い事の筈なんだけど――。
と思った時だ。
彼女が顔を上げた拍子に、被っていたフードがパサリと肩に落ちた。
その瞬間、理解する。
「君の境遇を考えればその反応も頷けるけど……どうしてこの国に居るんだ? 《《獣人》》なのに」
そう尋ねると、彼女はおそらく「自分が本来ここに居てはいけない存在なのだ」という事を、きちんと理解してるのだろう。
黄金色の獣耳を頭にペタンと伏せたその少女が、肩をビクリと震わせながら薄紫色の瞳に絶望を映して俺を見た。
まるで死刑でも宣告されたかのようだ。
そんな風に俺は思った。
この怯えようじゃ俺が彼女を虐めているかの様な感じだ。
お陰で思わず俺も眉尻を下げてしまう。
「お願いだからそんなに怖がらないで、大丈夫だから。……俺はただ、君が今置かれた状況をちょっとでも多く把握して、出来れば君の助けになってあげたいと思っているだけなんだ」
声色と口調を出来る限り柔らかくできる様に心がけて、俺はゆっくりとそう告げた。
本来ならば、まだ無邪気な年頃の筈だ。
それがこんなに、魔物の脅威がなくなった後までこんなにも警戒しているという事は、多分そうせざるを得ないような人生を歩んできたという事なんだろう。
「もちろん君が『助けなんて必要ない』って言うんなら無理強いはしない。でも、さっき君は追われていたし、実際に死にそうにもなった。もしかしたら困ってるんじゃないかなと思ってさ」
どうかな?
そう言いながら、俺は彼女の顔を見る。
今の俺はもう何の権力も持たないただの平民で、鶴の一声なんて使える筈も無い。
しかしだからこそ、この国の法律に必ずしも縛られる必要もなくなった。
勿論ルールを守る事は大切で、この国においてルールと呼べるものの内の一つが法律である事実は変わらない。
しかし俺は、もうこの国を出ていく身だ。
ルールを守る必要はない……とは言えないが、誰にも迷惑を掛けない存在なんだったらこの女の子をこっそり助ける事くらい、してもいいんじゃないだろうか。
そう思えるくらいには、俺にも良心というものがある。
控え目な俺の言葉に申し出に、少女は怯えながらも口を開いた。
「……お母さんは『人間に会ったらすぐ逃げなさい。人間はみんなすぐに襲いかかってきて、あっという間に鍋にして食べちゃうから』って」
「うーん、そうかぁー……」
告げられた彼女の言葉に、俺は軽く天を仰ぐ。
正直言って、どんなに獣人好きでも嫌いでも獣人を鍋にするような人間は流石に居ない。
が、母親がそんな極端な事を言った理由も分かる。
この国は、人族以外の入国は禁止している。
そしてもし見つかった場合の措置は、元居た国へと強制送還……という名の『放り出し』だ。
元居た国での生活が成り立たないからこそ、さぞ生きにくいだろうこの国に潜ったんだろうに、その内情は当たり前だが考慮されない。
それだけじゃない。
もし誰かに見つかってしまったら、迫害を受ける事もあるだろう。
もしそれが差別主義者だったとしたら、最悪殺される事にだってなるかもしれない。
この国では奴隷の所有を禁止しているが、ここは人族の国で他種族は居ない前提で、適用される範囲は人族だけなのである。
中には「居ない筈のものをどう扱っても、居ないんだから問題ない」なんて屁理屈をこねる連中も居て、もし他種族を奴隷のように扱っている事が知れてもそのへ理屈が適用されて罰を受けない事が多い。
万が一見つかったとしても使っていた本人が被るのは、精々他種族民を取り上げられるくらいの事だ。
対して他種族民の方は、奴隷生活からは解放されるがその代わりに雨風凌げる場所と辛うじて貰えていた食料源を失って、国外へと放り出される。
その後苦労する事なんて目に見えているだろうにも関わらず。
きっと彼女の母親は、そうならない様にする為、あんな極端な事を言ったのだ。
人間に出会ってしまった時に恐怖でも何でも良い、彼女がすぐに逃げられるように。
そこに確かな母の愛を感じ、俺は「まぁそうかもしれないなぁー」と彼女の母の言を肯定した。
と、彼女は大きくビクついて顔を腕で抱えつつ身を縮めて震え出した。
だから慌てて「でも大丈夫」と、まるで呪文のように唱える。
「だって俺がもしその気なら、君はもう鍋になっちゃってるところだよ? だって俺、君よりは多分強いからね」
言い聞かせるように、諭すようにそう言うと、怖れに瞑っていたあの瞳がおずおずと俺を見て言う。
「それは、そうかもしれないの……」
良かった。
ちょっとは納得してくれたみたいだ。
まだ体も震えているがちょっと弱まった気もするし、俺もちょっと安心しつつ最低限の事を聞く。
「君は、そのお母さんと二人なのかな?」
「二人……だったの。でももう居ない。『ていこく』から逃げてきて、ここに来るまでの途中でお母さんは『お星さまになるから』って。『お星さまになったらいつでも見守っていられるから』って……。だからもう、夜しかお母さんには会えないの……」
「そっか……」
なるほど、そういう説明があったのならば、母親との別れはもしかすると突発的なものではなかったのかもしれない。
そんな事を思いつつ、俺は更に聞いていく。
「じゃぁ君は今、一人っていう事で良いのかな?」
「うんなの……。お母さんが『ニョッキ山の方に向かって行くのよ』って言ってたから、そこに向かってる途中なの」
そう言って遠くに見える山を指差した彼女に、俺は「そうか。君はお母さんの言いつけを守ってるんだね」と相槌を打ってから考える。
多分この子は、隣国・リドニア帝国からの亡命者なのだろう。
あそこは獣人を合法的に奴隷として扱っている国だから、自由を求めてこちらに不法な亡命をするのも分かる。
が、おそらくここも二人の目的地という訳では無かったのだろう。
それは彼女が母から聞かされている目的地が示していた。
彼女が『ニョッキ山』と言っているその場所の正解は、おそらく『ニョシキ山脈』。
そしてそこにあるのが、俺の目的地でもあるノーラリアである。
「多分君のお母さんは、帝国からこの国を経由してノーラリアに行くつもりだった……」
子供と一緒に安心して暮らせるような国に行こうと思うなら、ノーラリアに行くのは道理に叶う。
もし人脈が無いにしても、奴隷にされる心配も追放される心配もしなくていい。
そう考えれば天国のような場所である。
相手は身寄りを無くした子供。
他種族だけど、だからこそ見つかったらただじゃ済まないし、折角助けた命が無碍に扱われるのも喜ばしくない。
その上目的地は同じだから寄り道するまでも無い。
(丁度この馬車の旅で「実は結構子供好きだった」って事を自覚もしたし、道中暇だし……っていうのはきっと、全部言い訳なんだろうなぁ)
思わずそう独り言ちて苦笑する。
結局のところ、放っておけない。
放り出したくない。
そんな自分のエゴがあるだけだ。
「あのさ、俺と一緒に来る気はある? ちょうど目的地が同じみたいだし」
「……へ?」
「一緒に行けば、多分今より怖くも心細くも無くなる。なんてったって、俺は君より強いしね」
そう言って、右手をスッと差し出した。
「道中は、俺が君を助けてあげられる。国に着いた後の話はまた着いたらするとして、君の自由を縛らない事は今ここで約束しよう。だから……どうかな?」
俺の言葉に目をパチクリとさせながら、彼女は言葉を聞いている。
そして全てを言い終わった後、薄紫の彼女の瞳が俺の顔と差し出した手を何度も何度も行き来して、やがておずおずとこう聞いてきた。
「あの……お鍋にしたり、しない?」
縋るような上目遣いで、しかし真面目にそんな事を聞いてきた彼女に、俺は思わず口元を綻ばせる。
可愛らしさに思わず笑ってしまいたいのは山々、だけど多分今が重要な局面だ。
だから努めて真面目な顔を作り。
「しない、絶対に」
そう誓って。
するとそれから数秒間の沈黙の後で、彼女はコクリと頷いてくれた。
「じゃぁ行こうか」
「……うん、なの」
差し出した手に、恐る恐る小さな手が乗せられる。
そこに確かな体温があって、彼女がもう一人になる事が無いようにと俺はその手をきちんと握った。
「そうだ。俺はアルド。君の名前は?」
「クイナっていうの」
「そうか、クイナか」
そんなやり取りをしながらチラリと隣の彼女を見やる。
耳の他に尻尾もあった。
それが歩みと共に緩やかに、まるで少し体のバランスを取るように揺れている。
「うーん、耳からして犬……いや、尻尾がちょっと太いから狐、かな?」
「うん、狐なの」
「そっか。何か食べられないものとかは……」
「クイナはね、何でも食べるいい子なの。けど、お肉とお菓子が大好きなの!」
「あ、お菓子は無いけど、お肉なら干し肉が――」
グゥー。
「……」
「何か今、お腹が勝手に返事したな……?」
「してないの」
「いやしたろ」
「でも、どうしてもって言うんなら、食べてあげても別にいいの」
そう言った彼女の耳はピコピコ尻尾はファサァーッと動いていて、情報収集はしている様だが少なくともさっきまでの警戒に縮こまった彼女よりは、随分とリラックスし始めているように見える。
(もっと最初は緊張を露にされるかと思っていたから正直言って拍子抜けだが、彼女の元々持ってる人懐っこい気質がこういう反応をさせるのか……?)
そんな事を思いつつ、まぁとりあえずは俺と一緒に居ることが大きなストレスにはなっていないようなので、内心でホッとした。
手を繋いで、俺とクイナは森を歩く。
目指すのは、先程降りた馬車が止まっているあの場所だ。
馬車に着いたら、まずは彼女が森で獣に追われていた事を話そう。
そして、一緒に乗せてもらって出発だ。
実際に出たのは想定していた獣ではなく魔獣だったが、それを正直に話してしまったら町に行った時に事情聴取されるかもしれない。
今はクイナを連れてるし、俺は元王太子だ。
そうなれば、十中八九面倒事になるだろう。
そういうのは出来れば避けたい。
(流石に魔獣の出現を知らせないのはどうかと思うし、出る直前に町の人に「死骸があった」とでも言っておこう)
そう言っておけば多分誰かが確認に来て、その後どこか然るべき場所に報告を上げる事になる。
今の俺に出来るのは、せいぜいそのくらいの事でしかない。
俺はそう思考を締めくくり、実際その段取り通りの行動を取った。
後日、アルドの伝言を受けた住民は冒険者に調査を依頼し、現場にやってきたBランク冒険者の一団は思わず絶句する事になる。
「どうなってんだ……」
リーダーの男がそう呟いたのは、ガイアウルフ亜種の死体が4頭も転がっているから――だけじゃない。
その死体を中心にして円状に伐採された、一部焦げた沢山の木々。
しかも残っている幹を見る限りかなり太い物ばかりだった筈なのに、辺りに転がってる残骸は全て少し大きめの薪くらいの長さ太さで切り刻まれ落ちている。
どう考えても普通じゃない。
「ぅわっ!」
「どうしたっ?!」
後方で仲間の悲鳴が聞こえて、彼は慌てて振り返った。
もしかしたらガイアウルフの生き残りかコレをやった犯人がまだ居る可能性があったからだ。
が。
「ったく、何なんだよこの足元はっ! ぬかるみ過ぎてて歩きにくいったら!!」
「ちょっとー、こんな所でこけたりしないでよー?」
「俺だって好きでズルった訳じゃないわ!」
陽気にそんなやり取りをする彼らに思わず、安堵と呆れが入り混じったため息を吐いて空を仰ぐ。
探知魔法を放ってみたが、脅威はもうここには無い。
が、この光景は尋常じゃない。
それだけは間違いなかったのである。