6月の講評会が始まった。
 並べた順番に先生が一人ひとりにアドバイスと感想を送る。
 至ってシンプルだ。
 楓の絵は台風の目だ。目の付け所がやっぱり面白い。台風のシーズンが終わる前に描きたい、と言っていた。
 「深見さんの発想はやっぱりいいねえ」
 「ありがとうございます!」
 深見さんの絵は、紙を木や葉っぱ、土の上などの自然物の上に置いてクレヨンでこすったものが一つの絵になっていた。
 深見さんの作品を見て、こんな発想は俺にはできないと感じた。
 「今回は宮本くんだけ素材が大きく違うね、いいじゃない」
 「よっしゃ!ありがとうございます!」
 みんなが宮本くんの作品に注目していた。
 「凄い」
 「こんなの思いつかないです」
 称賛する声が飛び交っていた。
 宮本くんは、紙粘土で丸い土台を作り、その上に家やビルなどを形作って色を塗っていた。黒と青を混ぜた建物に窓から漏れる光を黄色と白で描き、夜の風景を作品にしていた。
 「題名は、それぞれの暮らし......。うん、その通りだ。夜になるとそれぞれの家やビルから灯りが見える。そこには数え切れないほど、一つ一つに違う人生があるからね」
 この意味は、俺でもなんとなく分かったような気がした。
 おんなじに見えるものでも、おんなじものなんて存在しないってこと......か。
 「お、今回は2つも空と海の絵があるじゃないか。岡部くんと白川くん。でも時間帯が違うと印象はガラリと変わるねえ」
 大川先生は白い顎髭を触り、絵に顔を近づけながらそう言った。
 岡部くんのは夕焼けに染まった空と海。
 俺の絵は、青い海と青い空が広がった絵に、何羽もの鳥が空を羽ばたいている絵を描いた。白い光に照らされてよりダイナミックに見えた気がしたからだ。
 大川先生は窓の方へと歩き、外を見ながら話し始めた。
 「海はよく青色に見えるっていうけれど実は青色じゃないんだ。光の波長の長さの関係で、青色だけが強く残るだけ。だから青色に見えている。もしかしたら海が青いとは限らないことなのかもしれない。空がそれを教えてくれているからねえ」
 空と海は繋がっているのか。
 見えない光......。
 でもどうせ俺にはよく分からない。


 俺は青色以外で空と海を描いてもいいのだろうか。
 誰か「いいよ」って言ってくれるだろうか。