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 「ねぇ、愛美ちゃん?どうしたの、改まって話したいことがあるって」

 「……うん。あのね」

 バイトが終わって、いつもの公園に出向いた。真夜中の公園は、今日も静かだった。

 そろそろ梅雨も明けて、本格的な夏がはじまろうとしている。

 「あの、今日はね。梨々花のことをいろいろ知りたくて」

 「……なんで?」

 「え──?」

 いつもの梨々花の声じゃなかった。

 鋭く尖ったような彼女の声が耳に突き抜ける。

 「……梨々花?」

 「愛美ちゃんはあたしの何が知りたいの?」

 「えっと、いろいろだよ。思えば私、梨々花の学校の名前も知らないし、部活は何してるのかとか、全然聞いてこなかったなって思って。いつも私の話ばかり聞いてもらってたから」

 「あたしのことは知ろうとしなくていいよ」

 「……え?」

 辺りが暗いせいだろうか。まだうまく外の暗がりに慣れなくて、梨々花の表情がよく分からない。

 どんな顔をして話しているのか分からないから、少しだけ言葉に棘を感じてしまう。

 「なんであたしのことを知りたくなったの?」

 「そんなの、もっと仲良くなりたいからに決まってるよ!」

 「……それだけ?」

 梨々花、今日は本当にどうしちゃったんだろう。

 いつもの明るい声も、あの飛び跳ねるようなテンションもない。

 「梨々花?」

 そして少しずつ彼女の暗さに目が慣れて、改めて彼女のほうを見ると……梨々花はジッと私を無言のまま見つめていた。

 「正直に言ってよ、愛美ちゃん。何かあったんでしょ?」

 「そ、そりゃあ少しだけ……気になることはあるよ?」

 「それって何?」

 「た、たとえば梨々花の……彼氏のこととか」

 「……」

 「あとは梨々花がトートバッグを床に落としたときに見た、免許証のことも」

 何か事情があるのかもしれないと思って聞けなかった。名前が違うことにも、きっと何かあるのだろうと思ってあえて触れてこなかった。

 だけど、梨々花が私にしてくれたように、私も梨々花の話を聞きたかった。

 もっとお互いにたくさんのことを知って、仲良くなりたかったから。

 「……聞きたいことはそれだけ?」

 「と、とりあえずは。あ、あのでも無理に話さなくても……私は」

 「ごめんね、愛美ちゃん。あたし、今日は疲れたからもう帰るね」

 「え!?」


 終始暗い声の彼女に、私は心配が隠せない。いつもの梨々花とはかけ離れている。

 何か触れてはいけないことをしてしまったとか?それとも聞かれたくないことがあったのかもしれない。

 「り、梨々花待って! また火曜日、カフェに来てくれるよね!?」

 「……」

 「私、梨々花が話したくないことは聞かないし、無理強いすることもしないよ!?」

 「……っ」

 「でももっと仲良くなりたいって気持ちはずっとある!」

 「……めて」

 「私、梨々花のことが大好きだから!」

 「やめて!」

 「どうして?」

 「あたしのこと……知ろうとしないでっ」



 梨々花はそう叫んで、走って帰っていった。

 そして、二度とカフェに来てくれることはなかった。



 何週間も、何ヶ月も、梨々花に会える火曜日と金曜日を待っていた。

 何度も連絡をしてみたけれど、私のメッセージが既読になることはなかった。

 カランッとカフェの扉があく音がするたびに、梨々花かもしれないと期待を寄せては裏切られた。

 そうして、もうすぐ一年が来ようとしていた──。