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体育館裏の寂れたベンチに座って、紗奈に言われたことをずっと考えていた。
膝の上に置いたままのお弁当はどんどん冷めていく。今はご飯を食べる気力さえどこかへ消え去ってしまった。
「……」
ずっとこんな毎日が続くのだろうか。あと何日、この孤独と付き合っていけばいいんだろう。
三年生になって、クラス替えがあるまであと九ヶ月近くもある。いつか我慢の限界がきて、心が折れてしまうのは時間の問題だ。
どうして喧嘩した優里と紗奈は平気な顔をして毎日楽しそうに過ごしているのに、何もしていない私がこんな目に遭わなくちゃいけないのだろう。
優里も知夏も紗奈も、みんな揃って私に『自分の意見がない』というけれど、私が何かを意見したところで、ちゃんとそれを聞いてくれるの?
もしも意見が割れてしまったら、困るのは三人のほうじゃない?
だからいつも、なるべくみんなに合わせて穏便に済まそうとしてきた。
どうせ『喧嘩しないで、仲良くしてよ』って言っても優里と紗奈は絶対に仲直りなんてしないんでしょ?都合がいいときばかり、私の意見を欲しがらないでよ。
またいつものように、心の中で言いたいことを叫んだ。そんなことしかできない自分に、負の連鎖が重なっていく。
「……っ」
終わりの見えない不安が、少しずつ私に襲いかかってくるのが分かった。
悲しい涙なのか、それとも悔しい涙なのか、どちらか分からない涙が流れてくる前に雑に袖で拭いとって、何もなかったことにした。
「……あれ、坪井さん?」
そんな私の元に届いた、昨日ぶりの声。
呼ばれたほうへ振り向くと、そこに立っていたのは青葉くんだった。
体育館の大扉から体を乗り出して、不思議そうにこちらを見ている。
「あ、青葉くん!?」
「昨日ぶりだね。あ、ってか昨日のケーキと珈琲、本当にありがとね」
「う、ううん。余りものだったから、本当気にしないで」
彼とまた偶然出会えたことに喜びを感じたのも束の間、昨日一緒にカフェに来ていた彼女のことを思い出して、すぐにその気持ちはかき消されていく。
昨日のことを思い出すたびに、チクリと胸が軋む。
「坪井さん、ここでお昼食べるの?」
「あ、えっと、うん。実は今ちょっと友達とギクシャクしちゃってて……」
友達と揉めるような子なんだって思われたかな。もう少し言い方を変えればよかったかもしれない。
何も考えずに言葉にしてしまったことを後悔しながら、視線を逸らして俯いた。
「じゃあ俺も今日はここで食べよっかな」
「え?」
「実はさっきまで部活のミーティングに呼ばれてて体育館に来てたんだけど、食堂ももう人でいっぱいだろうし……一緒にここ、座ってもいい?」
「あ、うん。どうぞ……」
そういうと、青葉くんは『お邪魔します』と言って私のとなりに座って、お弁当を広げていく。
予想外の展開に驚きを隠せない私も同じように、胸をドキドキさせながらお箸を取り出した。
「一週間後にはテスト週間に入るよね?坪井さんはいつもどんなテスト対策してる?」
「私はひたすら問題集を解いたり、今まで配られたプリントのまとめノートとか作ってる……かな」
「まとめノートかぁ、すごいね。坪井さんいつも先生に当てられた問題でもスラスラ解いちゃうから、俺すごいなって思ってたんだよね」
「そ、そんなことないよ」
「あ、そういえば友達に教えてもらったんだけど、この勉強動画の解説がめちゃくちゃ分かりやすいらしくって」
青葉くんとの何気ない会話に、少し前までの鬱々とした気分は気付けばどこかにいっていた。
二年間同じクラスだったけど、こんなふうに二人きりで話すのは初めてだった。私がひとりぼっちだったから、気を遣って一緒にお弁当を食べてくれたのかもしれない。
みんなに優しくて、人気者の青葉くん。
梨々花には『自分から声をかけていかなくちゃいけない』と再三言われていたけれど、どうしても、カフェに一緒に来ていた彼女のことだけは聞けなかった。勇気が、でなかった。