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 「……どういう、こと?」

 朝、教室に入ってすぐ、私はその異変に気づいた。

 いつも一緒にいる四人グループの中に、一人だけ……いなくなっていたからだ。

 「あ、愛美おはよー」

 「つーかずっと思ってたけど、愛美ってば来る時間結構ギリギリじゃん?」

 私が登校すると、毎朝教室の一番うしろの席で、優里と知夏、それから紗奈がいて、髪を整えたり他愛もない話で盛り上がったりしているはずだった。

 けれど、今はそこに優里と知夏しかいない。紗奈は自分の席に座ってスマホをいじっている。

 「……あの、紗奈は?」

 「さぁ、知らない」

 「うちらと一緒に居たくないんじゃない?」

 紗奈の名前を出した途端、二人は顔を見合わせながら小さく口角を上げた。

 何があってこんなことになったのか。同じグループにいても、私にはその理由すら分からない。


 そもそも私以外の三人は一年生のときから同じクラスで、ずっと一緒に過ごしてきていたと聞いている。

 二年生に進級してすぐ、たまたまとなりの席になった優里が私に声をかけてくれたことがきっかけで三人と一緒に行動するようになったけれど、付き合いの長さというのは四人の関係性に顕著に現れていることを、私は肌でヒシヒシと感じていた。

 私にはない優里たち三人の絆というものがはっきりと存在していて、例えば三人組を作らなければならないとき、余りが出て一人になるのは必ず私だった。

 “いつも一緒にいる四人組”というよりも、三人の中に私が入れてもらっているという表現のほうがしっくりとくるような、そんな関係だったはずのグループに、今は目に見えるような亀裂が入っている。

 「あ、そうだ。念のために聞いておきたいんだけど、愛美はどっち側に付きたいわけ?」

 「確かに!それ聞いとかないと今後やりづらくなるよねぇ」

 「どっちって、そんな……っ」

 優里のはっきりとした物言いが、今日ほど恐ろしいと思ったことはない。

 いつも自信に溢れていて、好きなものは好き、嫌いなものは嫌いと言える彼女の圧に押しつぶされてしまいそうになった。

 「愛美に一つアドバイスなんだけど、大切にする人って間違えちゃいけないと思うんだよね」

 「え?」

 「うちの家ってほら、両親離婚してるじゃん?兄が母親側について、あたしは父親側についたんだけど……母親側についてたら、あたしは今頃スマホすら買ってもらえなかったかもって感じなわけ」

 「優里のパパってめっちゃ金持ちだもんね!」

 「そこであたしは学んだんだけどさ?自分の味方につける人間を間違ったら大変なことになるよってこと」

 「それはっ」

 「別にあたしは愛美がどっちの味方をしてもいいんだけど、選択は間違えないほうがいいかもね」

 優里がそう言い終えたとき、ちょうど朝のHRがはじまるチャイムが鳴り響いた。

 私はそのチャイムに、心底救われた気がした。彼女の言葉を聞いているとき、息がうまくできなかった。