***
『愛美ちゃんへ。
あの日からずっと、何も言わずに逃げ続けている私を許してください。
私の名前は、梨々花という名前じゃありません。
本当は高校にも通っていません。
中学校を卒業してから今まで、ずっとお昼は車の部品工場で働いています。
中学生のとき、私は友人と呼んでいた人達からいじめを受けて、心を壊しました。
楽しみにしていた高校生活も、恋も、部活も、すべてを諦めなければならないほどに壊れていました。
私をいじめた人たちを許さない。同じように苦しめてやりたい。
そんな醜い感情が時間と共に少しずつ薄れていったとき、こんな私にも小さな目標ができました。
それは、高校卒業認定試験を受けて、大学へ通うことでした。
朝から夜まで工場で働いたあと、夜はひたすら勉強に励みました。
だけど、家で引きこもってばかりいるとどうも集中できなくて、仕事終わりでも通えるようなカフェを探していたとき、愛美ちゃんのカフェに辿り着きました。
カフェで勉強するということは、私が高校生になったらやってみたかったことの一つでした。
どうせカフェで勉強するのなら、その時間だけでも“高校生の私”になってみたいと思うようになりました。
ネットで適当に買った制服を身に纏って、うっすらとメイクをして、髪をシュシュで一つ結びにして。
カフェで教科書を開いて勉強している『私』は、数年前に私が思い描いていた自分そのものでした。
実際に経験することはできなくても、あのとき思い描いていた青春を楽しもう。
カフェにいるときだけは工場で働く「田中陽子」ではなく、うんと可愛い名前で、めいっぱいおしゃれをした高校生の『梨々花』でいよう。
そう思っていたとき、あなたに出会いました。
現役の高校生の友達ができたことが嬉しくて、もっともっと理想の自分でいたいと思うようになりました。
あなたが話してくれたたくさんの悩みも、田中陽子では絶対に答えられないようなアドバイスも、『梨々花』ならすぐに言葉にすることができました。
全部、全部、私があのとき思い描いていた青春を、絵空事のようにあなたに話してしましました。
すべて私の妄想にすぎない、嘘ばかりを並べて。
だけどあなたは、そんな私の嘘を疑うこともせず、全力でぶつかってきてくれました。
もっと私を知りたい、もっと仲良くしたい。
今まで誰からも言われたことのないそんな言葉をあなたから聞いたとき、心から嬉しいと思う反面、あなたを騙しているという罪悪感に苛まれました。
名前も、年齢も、彼氏がいるといったことも、すべて嘘です。
あなたを騙して、友達になろうとして、本当にごめんなさい。
でも、できることなら私は、もっともっとあなたと友達でいたかった。
本当の親友になりたかった。
でも、本当の私はただの田中陽子だから……あのままあなたと友達のふりを続けることはできませんでした。
こんな私のことをもう一度だけ許してくれるなら、また会いたいと思ってくれるなら、今度は本当の私の姿で会いに行かせてください。
最後に、手紙を書くことさえこんなにも遅くなってしまってごめんね。
少しの間だったけれど、『梨々花』という偽物の人物だったけれど、私と出会ってくれてありがとう。
私の人生の中で、あなたと過ごした数ヶ月間が何よりもかけがえのないものになりました。
パティシエの夢、叶えてね。
いつかあなたが作ったケーキを食べることができますように。
田中陽子』
『愛美ちゃんへ。
あの日からずっと、何も言わずに逃げ続けている私を許してください。
私の名前は、梨々花という名前じゃありません。
本当は高校にも通っていません。
中学校を卒業してから今まで、ずっとお昼は車の部品工場で働いています。
中学生のとき、私は友人と呼んでいた人達からいじめを受けて、心を壊しました。
楽しみにしていた高校生活も、恋も、部活も、すべてを諦めなければならないほどに壊れていました。
私をいじめた人たちを許さない。同じように苦しめてやりたい。
そんな醜い感情が時間と共に少しずつ薄れていったとき、こんな私にも小さな目標ができました。
それは、高校卒業認定試験を受けて、大学へ通うことでした。
朝から夜まで工場で働いたあと、夜はひたすら勉強に励みました。
だけど、家で引きこもってばかりいるとどうも集中できなくて、仕事終わりでも通えるようなカフェを探していたとき、愛美ちゃんのカフェに辿り着きました。
カフェで勉強するということは、私が高校生になったらやってみたかったことの一つでした。
どうせカフェで勉強するのなら、その時間だけでも“高校生の私”になってみたいと思うようになりました。
ネットで適当に買った制服を身に纏って、うっすらとメイクをして、髪をシュシュで一つ結びにして。
カフェで教科書を開いて勉強している『私』は、数年前に私が思い描いていた自分そのものでした。
実際に経験することはできなくても、あのとき思い描いていた青春を楽しもう。
カフェにいるときだけは工場で働く「田中陽子」ではなく、うんと可愛い名前で、めいっぱいおしゃれをした高校生の『梨々花』でいよう。
そう思っていたとき、あなたに出会いました。
現役の高校生の友達ができたことが嬉しくて、もっともっと理想の自分でいたいと思うようになりました。
あなたが話してくれたたくさんの悩みも、田中陽子では絶対に答えられないようなアドバイスも、『梨々花』ならすぐに言葉にすることができました。
全部、全部、私があのとき思い描いていた青春を、絵空事のようにあなたに話してしましました。
すべて私の妄想にすぎない、嘘ばかりを並べて。
だけどあなたは、そんな私の嘘を疑うこともせず、全力でぶつかってきてくれました。
もっと私を知りたい、もっと仲良くしたい。
今まで誰からも言われたことのないそんな言葉をあなたから聞いたとき、心から嬉しいと思う反面、あなたを騙しているという罪悪感に苛まれました。
名前も、年齢も、彼氏がいるといったことも、すべて嘘です。
あなたを騙して、友達になろうとして、本当にごめんなさい。
でも、できることなら私は、もっともっとあなたと友達でいたかった。
本当の親友になりたかった。
でも、本当の私はただの田中陽子だから……あのままあなたと友達のふりを続けることはできませんでした。
こんな私のことをもう一度だけ許してくれるなら、また会いたいと思ってくれるなら、今度は本当の私の姿で会いに行かせてください。
最後に、手紙を書くことさえこんなにも遅くなってしまってごめんね。
少しの間だったけれど、『梨々花』という偽物の人物だったけれど、私と出会ってくれてありがとう。
私の人生の中で、あなたと過ごした数ヶ月間が何よりもかけがえのないものになりました。
パティシエの夢、叶えてね。
いつかあなたが作ったケーキを食べることができますように。
田中陽子』