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「愛美は受験が終わったばかりなんだから、もうバイトはしなくていいんだよ?」
「大丈夫だって、おばあちゃん。やっとあの地獄受験から抜け出せたんだし、息抜きしたいの。それに私の将来の夢でもあるんだから」
あれから私は、何度も両親を説得して、結果的にパティシエも目指せる大学へ進学することになった。
幾度となくパティシエの専門学校に行きたいと言っても、お父さんは『もっと幅広く、いろんなことを学びなさい』と、私にいろんな大学を調べて進めてくれるようになった。
「それに今日はね、友達が来てくれ──……」
おばあちゃんにそう言おうとしたとき、カランッとお店の扉が開いた。
「あ、愛美お待たせー」
「あ、みんな!久しぶりだね!」
「遅刻したのは優里の準備が遅いせいだからね、愛美」
「はぁ!?紗奈だって前髪が崩れたからやり直す、とか言ってたよね?」
「はいはい、うちの誕生日に喧嘩するのやめてくれない!?」
今日は優里と紗奈、それから知夏の三人がカフェに来てくれることになっている。
私にとっては世紀末のような大喧嘩をして、それから数日間ずっと冷戦状態が続いていたけれど、ある日を境に二人はまた以前のように仲良くなってくれた。
知夏からこっそりと聞いた話では、私があの日、教室で怒涛の勢いで思いの丈を言い放ったあと、優里と紗奈はあたらめて話し合いの場を設けることなったそうだ。
当時は本当にどうなるか不安でたまらなかったけれど、三年生になってクラスがバラバラになった今でも、こうして四人で集まれる関係が続いていることが何よりも嬉しくてたまらない。
「知夏は今日の主役だから、この席に座ってね!」
「ふっ、知夏はあとこの"俺が今日の主役”襷をかけてもらうから」
「なっ!そんな恥ずかしいもの用意しないでくれる!?全然映えないんだけど!」
三人がいつもどおりの言い合いをしている中、私は昨日から仕込んでおいたケーキを取りにキッチンへ向かった。
やっと完成した、焦しチーズケーキだ。
「あ、愛美?そういえば昨日ね、一番壁際のひとり席があるだろう?そこに宛名のない手紙が置かれててねぇ」
「……え?」
「どうやら愛美宛のようだから、はいこれ」
ふと思い出したように、おばあちゃんは私に一通の白い封筒を手渡した。
“一番窓際の、ひとり席”。
その言葉を聞くだけで、今でも私は彼女のことを思い出す。
窓もない壁際だから、滅多にお客さんが座ることのない席だった。
キッチンの奥に入って、ゆっくりと手渡された封筒の中から手紙を取り出す。
「……これっ」
これを書いたのが誰なのか、私はすぐに理解した。
癖のある丸字に、何度も消しては書いてを繰り返した痕のある手紙は、数枚にわたってぎっしりと文字で埋め尽くされていた。
『愛美ちゃんへ』
そんな文字からはじまった手紙には、彼女──……梨々花のすべてが書かれていた。