次の日の朝休み、登校してきた神崎くんが真っ直ぐに私の席にやってくる。

「おはよう莉緒」

「おはよう神崎くん」

 挨拶を交わすと、女子の視線が急に集中してくる。

 今まで話していなかったのに急に挨拶をするなんて、おかしいとでも思ったんだろう。
 でも、今日は神崎くんがクラスの女子に何か見せると言っていた。
 詳しくは教えてくれなかったけど、朝にできればやりたいと言っていた。

「莉緒、椅子の後ろに立たせて」
「え? いいよ」

 そう言って椅子を引いて彼ようのスペースを作る。

 後ろに神崎くんが入り、何をするのか分からず緊張しているとふわっと彼の匂いに包まれた。

「……え?」

「おい神崎、何やってんだよ!」

 神崎くんと1番仲良しな杉谷くんが1番に声を出す。
 次第に周りの女子からも「神崎くんなんで」「一体どうしたの」と言ってくる。

 今、教室の後ろの席で私は昨日恋人になった神崎くんに、後ろからハグされています。

「か、か、神崎くん?」
「お前ら何見てんだよ、恋人なんだからちょっとくらいいいだろ」

 私のことは無視してクラスメートにいつもより乱暴な口調で話す神崎くん、なんかかっこいい……

 「恋人って何?」「嘘でしょ、なんで遠藤さんなの」「そんなぁ」あちこちから女子の沈んだ声がする。
 そして私に向ける視線が鋭くなっていく。

 こわいこわい、どうしよう、でもこれは神崎くんがぁ……

 私の様子に気がついたのか、神崎くんの腕に込める力が強まった。
 俺がついてる、そう言ってくれてるみたいだった。

「今まで俺に気を使う女子がいたみたいだけど、一年も前の話だから気にしないでいいよ。俺はいつでも話しかけてこられても可」

 さっきの態度とは対照的で爽やかに神崎くんが言うと一斉に女子が高い声を出す。

「でも俺は莉緒の彼氏だから、他の子に好意を抱くことはないからね」
 
 そう言うと一気に女子のテンションが下がる。というか誰も喋らなくなる。

 
「前みたいに莉緒に意地悪してたら、俺本当に許さないから。しっかり覚えておけよ」


 強く冷たく言い放った神崎くん、女子も何も言わない。

 代わりに男子達から盛大な拍手が送られる。

「神崎ぃぃ、俺はお前がそんなに男前だとは知らなかったぞぉぉ。無口な野郎としか思わなかったぞぉ」

 杉谷くんは泣く真似をして隣の男子にしがみついている。

「よ、イケメーン」「俺と付き合ってよー」「カッコ良すぎる」男子も口々に言っては盛り上がっている。

 一軍の女子はというと、私のことを睨むのをやめてスマホをいじり出す。コスメがなんだとか、ここのカフェがねーといって話を変えている。

 しかし、一部の女子は私の席の方にやってきた。

「遠藤さん、どういった経緯で神崎くんと付き合うことになったの?」
「神崎くんすごいね。クラスの中で彼女にハグだなんて、やるやん」

 その子達は今まであまり関わっていない人だ。その子達は穏やかで派手ではなく、一軍女子達のように辛く当たってくれることが一度もない人たちだった。だからいつか話してみたいと思っていた。

「あ、えっと、神崎くん一回離れて、欲しい」
「え、あ、ごめん」

 焦って私から離れる神崎くん、すぐに杉谷くんが彼に突進して男子達に囲まれる。
 その様子を見て私たちが朗らかに笑う。

 一瞬、神崎くんと目が合う。

 刹那、彼は嬉しそうに微笑んだ。

 私は彼の笑顔を見て再び、鼓動がトクンッと鳴った。

 そして私も同じように彼に笑いかけた。

 神崎くん、これからよろしくね。