深夜2:00ふとんにもぐってもなかなか寝れない。

 家に帰ってから仏壇の前で散々泣いた。奈緒は死んでるから慰めてくれない。

 眠れないので布団から出てもう一度仏壇の前に座る。

 奈緒は私と違って陽キャだと思う。
 みんなに信頼されていて、愛されていて……

 きっと私が死んだ方が良かった。

 その方が悲しむ人がもう少し減ったと思う。
 その中には神崎くんも含まれる。

 私が死んでいれば神崎くんは悲しまずに済んだ。
 クラスメートの女子が気を使うこともなかった。
 2人で幸せに過ごせていたのに、私がいるせいで彼は奈緒が生きていると勘違いしてしまう。

 一卵性の双子だから、そっくりだから見間違えてもおかしくない。
 私が死ねば良かったーー

 そう思った時、突然携帯の着信がなる。

 両親が起きないよう焦ってすぐに電話に出た。

「もしもし」
『もしもし、遠藤?』

 その声を聞いて、なぜか心がホッとした。

「神崎くん……」
『あ、え、泣いてる?』
「泣いてない!」
『大丈夫?』

 前に似たような会話をしたのを思い出す。
 確かあの時は、強がりって言っていた気がする。でも今は大丈夫って……

『今、遠藤の家の前に来てるんだけど来れる?』
「え、ちょっとなんで来てんの? 補導されるよ」
『こっそり来たから大丈夫、警察に見つかってないよ。とにかく来れる?』

 いつもより真剣な声に私は何も言わず、電話を切る。
 そして急いで玄関の音を立てぬよう開けて外に出る。

 玄関の前には神崎くんがいた。
 私を見るなり手を振ってくる。

 私は黙って近づいてまず彼の服の裾を引っ張り、自分の家の庭に連れてくる。

「補導されないように、こっちで話す」
「そっか、ありがと」

 月の光に照らされてよく見える嬉しそうな笑顔。
 前みたいでなんだか気が落ち着かない。

「今日は、なんで来てんのこんな時間に」
「あ、その俺。伝えたいことがあってきた」

 彼は私を真っ直ぐに見据え、言葉を続ける。


「俺はお前が好きだ」


 そう言われても、素直に喜べない。

「私は奈緒じゃないんだよ」
「そんなの分かってる。俺は莉緒が好きなんだ」

 莉緒が好き……その言葉で体の体温が一気に上がったような気がしたが、すぐに冷静になって考えた。

「奈緒の代わりの莉緒が好きってこと?」
「違うっ、修学旅行の時、確かにお前が奈緒に見えた。だから夢なんじゃないかって思ったんだ。だけど話す内容は修学旅行とかクラスのことだし、色々考えた結果夢ってなったんだよ」

 必死に喋る彼を私は静かな声で言葉を返す。

「私より奈緒の方が先に頭をよぎったんでしょ。それって私より奈緒に会いたかったからなんでしょ」
「だから、今それを確認しにきたんだよ」

 そう言って一歩私に近づく神崎くん、至近距離で私を見つめてしばらくして微笑み返す。

「莉緒にしか見えない」
「だから、今更なのよ。双子なんだし、顔もそっくりだし、2人の違いなんてわかるわけない!」

 私は一歩後ろに下がり距離を置こうとしたが、神崎くんに上着の裾を掴まれる。

「最初、シャーペンを莉緒は貸してくれたでしょ。奈緒とも似たようなことがあったんだけど、奈緒の場合半分強制だったんだよ。使いなさいって強引に。それは嫌じゃなかったけど、莉緒は丁寧だったでしょ。その時からこの2人は違う人なんだって分かってたよ。班行動の時も莉緒はしっかりスケジュール立てていくでしょ、真面目で頼れるところが莉緒。奈緒は全くそんなんじゃない適当な感じ。2人は性格が対照的だから、莉緒は元々奈緒の代わりにはなれないよ」

 そう言って神崎くんは裾から手を離してから私を見据える。

「確かにあの夜、莉緒が奈緒に見えた。奈緒のことは嫌いになっていない、だから会えたら嬉しいよ。でも今は、奈緒以上に莉緒が好きなんだよ」
  
 そう言ってもう一度改めて彼は私に伝える。


「俺は、今目の前にいる莉緒が好きなんだ」


 ずっと聞きたかった告白……嬉しくて、なんだか胸の中の空いた穴が神崎くんでいっぱいになっていくような感覚。


「私も、神崎くんが好きだよ」


 そう言うと神崎くんは私のことを胸に寄せつけ衝動に駆られるままハグをする。

「神崎くん!」
「良かった、マジで嫌われたのかもって死にそうだった」
「私も、奈緒のことが好きって意味だと思ってショックだったから、死にそうだった」
「あれは、嘘だよ」

 穏やかに笑っているけど、腕の力が緩むことはない。

 嘘、か。良かったぁ……
 
 どうしてだろう、今まで私が幸せになるイメージが湧かなかった。
 だからこうして、好きな人と結ばれているのが不思議な感じ。
 
 月光に照らされる中、こうして私たちは結ばれた。