「どうしたの? こんな夜中に」
「あー、ちょっとトイレに行きたくなって。遠藤は?」
「私も同じ、今帰るとこ」
「そっか……せっかくだし少し話さない?」
「え、いいよ。じゃあまずトイレに行ってきなよ。私ここで待ってる」
「わかった」
神崎くんは駆け足でトイレの中に行ってしまう。
彼が見えなくなると、思わず脱力してその場にうずくまる。
待ってよ修学旅行中にこんなことが起きるの! こんなの緊張しちゃうじゃん。
嬉しさと恥ずかしさでなんだかこの場で跳ねたい気分だ。
すぐに神崎くんは戻ってきて、2人で廊下にあるベンチにいることにした。
ベンチは月の光に照らされ、しっかり満月も見えている。なんてロマンチックなんだろう。
神崎くんの方を見ると、彼は私をすでに見ていた。
「今日は修学旅行でさ、結構楽しくてさ」
少し早口でいつもよりテンションが高いように感じられる。
今日が修学旅行ということは知っているのに、なぜ改めていうのか不思議だった。
「そうなんだ。良かったね」
班はくじ引きで決まった。
明日の班の男子は怖い人はいないし神崎くんもいるから大丈夫、だけど女子はまさかの私のほか2人が一軍の女子で、しかもあたりが1番強い人たち……高校最後の修学旅行がひどいことになるかもしれない……
「……遠藤は何してた?」
「え、まぁ寺を訪れたり屋台でご飯食べたり」
正直、楽しかったのか微妙だ。
女子に嘘の待ち合わせを場所を教えられて、集合時刻に間に合えず1人だけ先生から叱られたり、他の班員の写真を撮る係に抜擢され、自分は一回も写真に映れなかった。
こんなことになるなら、陰キャは陰キャらしく話しかけずに見ているだけでよかった。
ーーそれにあんな話を聞いたら、余計にそう思えてくる。
さっきのことを思い出すと、舞い上がっていた自分が一気に静まっていく。
「遠藤さ、最近大丈夫? 女子からなんかよく言われてない?」
「言われてるって何を?」
「遠藤と関わると辛くなるだけだって。女子がよく俺に言って来るんだけど」
そうなんだ、神崎くんに言うんだ……まぁ、そうだよね。
私は何も言えずにただ黙っていた。
「全部、うるさいって返してるよ俺は」
「っ、なんで?」
神崎くんを見ると、私のことを真剣に見ていた。
「俺は遠藤のことをあいつらよりも知っている、辛いだなんて思ったことがない」
「……嘘」
「嘘じゃない、遠藤はこっそり放課後掃除してたり、みんなが嫌がる仕事を率先してやるでしょ。俺、そう言う人が本当にすごいと思う。遠藤はいい人だよ」
私は視線を逸らして手で顔を覆う。
顔を見られたくなかった。涙が一定のリズムを刻んで流れていて外に漏れぬよう、必死に隠す。
私のことを知っている、その言葉の意味が残酷すぎて悲しさと悔しさで涙が溢れてくる。
「泣いてる?」
「泣いてない!」
「遠藤ってたまに強がるよね」
「知らない!」
神崎くんは楽しそうに笑う。
この笑顔がちゃんと私に向けられていたら……
「神崎くんさ、一つお願いがあるんだけど」
「ん? 何?」
私は彼の顔を見ずにそのまま言葉を紡ぐ。
「私の下の名前、言ってみて」
「え? 奈緒でしょ」
やっぱり、残酷だな……
「じゃあ、私のこと好き?」
「好きだよ」
私は涙目のまま、彼に精一杯の笑顔を作る。
「嘘つき」
彼は戸惑っている。それもそうか、だって仕方ないよね。
「あー、ちょっとトイレに行きたくなって。遠藤は?」
「私も同じ、今帰るとこ」
「そっか……せっかくだし少し話さない?」
「え、いいよ。じゃあまずトイレに行ってきなよ。私ここで待ってる」
「わかった」
神崎くんは駆け足でトイレの中に行ってしまう。
彼が見えなくなると、思わず脱力してその場にうずくまる。
待ってよ修学旅行中にこんなことが起きるの! こんなの緊張しちゃうじゃん。
嬉しさと恥ずかしさでなんだかこの場で跳ねたい気分だ。
すぐに神崎くんは戻ってきて、2人で廊下にあるベンチにいることにした。
ベンチは月の光に照らされ、しっかり満月も見えている。なんてロマンチックなんだろう。
神崎くんの方を見ると、彼は私をすでに見ていた。
「今日は修学旅行でさ、結構楽しくてさ」
少し早口でいつもよりテンションが高いように感じられる。
今日が修学旅行ということは知っているのに、なぜ改めていうのか不思議だった。
「そうなんだ。良かったね」
班はくじ引きで決まった。
明日の班の男子は怖い人はいないし神崎くんもいるから大丈夫、だけど女子はまさかの私のほか2人が一軍の女子で、しかもあたりが1番強い人たち……高校最後の修学旅行がひどいことになるかもしれない……
「……遠藤は何してた?」
「え、まぁ寺を訪れたり屋台でご飯食べたり」
正直、楽しかったのか微妙だ。
女子に嘘の待ち合わせを場所を教えられて、集合時刻に間に合えず1人だけ先生から叱られたり、他の班員の写真を撮る係に抜擢され、自分は一回も写真に映れなかった。
こんなことになるなら、陰キャは陰キャらしく話しかけずに見ているだけでよかった。
ーーそれにあんな話を聞いたら、余計にそう思えてくる。
さっきのことを思い出すと、舞い上がっていた自分が一気に静まっていく。
「遠藤さ、最近大丈夫? 女子からなんかよく言われてない?」
「言われてるって何を?」
「遠藤と関わると辛くなるだけだって。女子がよく俺に言って来るんだけど」
そうなんだ、神崎くんに言うんだ……まぁ、そうだよね。
私は何も言えずにただ黙っていた。
「全部、うるさいって返してるよ俺は」
「っ、なんで?」
神崎くんを見ると、私のことを真剣に見ていた。
「俺は遠藤のことをあいつらよりも知っている、辛いだなんて思ったことがない」
「……嘘」
「嘘じゃない、遠藤はこっそり放課後掃除してたり、みんなが嫌がる仕事を率先してやるでしょ。俺、そう言う人が本当にすごいと思う。遠藤はいい人だよ」
私は視線を逸らして手で顔を覆う。
顔を見られたくなかった。涙が一定のリズムを刻んで流れていて外に漏れぬよう、必死に隠す。
私のことを知っている、その言葉の意味が残酷すぎて悲しさと悔しさで涙が溢れてくる。
「泣いてる?」
「泣いてない!」
「遠藤ってたまに強がるよね」
「知らない!」
神崎くんは楽しそうに笑う。
この笑顔がちゃんと私に向けられていたら……
「神崎くんさ、一つお願いがあるんだけど」
「ん? 何?」
私は彼の顔を見ずにそのまま言葉を紡ぐ。
「私の下の名前、言ってみて」
「え? 奈緒でしょ」
やっぱり、残酷だな……
「じゃあ、私のこと好き?」
「好きだよ」
私は涙目のまま、彼に精一杯の笑顔を作る。
「嘘つき」
彼は戸惑っている。それもそうか、だって仕方ないよね。