神崎くんを意識し始めたのは2年生最初のテストの時だった。
***
はらりとテストの解答用紙が床に落ちる。
しまった、と心の中で呟いてから試験監督の先生を見据える。
先生は信じられないが今にも寝そうな様子だった。
何度もコクリコクリと頷いている。
まだ半分も書ききれていない、先生を起こそうにしても今はテスト中だし声を出すことができない。
ーーもしかして私詰んだのかな?ーー
今回の数学は1番勉強したから自信があったのに、悔しさと何もできない自分が嫌になる。
ここは勇気を持って声を上げるしか……でもみんなの視線を集めることになるし恥ずかしい。
やっぱりこのまま終わるのを待つべき? そう思った途端、後ろから音がした。
カランッーーきっとシャーペンが落ちたのだと思う。
静寂な教室に響き渡り、生徒が一瞬ビクッと驚いている。
それは先生も同様で、少しだけ跳ね上がって起きていた。
辺りをキョロキョロしてからまっすぐに私の列へやってきた。
先生は私の後ろの席で止まってシャーペンを拾っていた。
そのとき、私の回答用紙があることにも気がついて一緒に拾ってくれた。
先生が戻ると今度は目がパッチリしていて、寝まいという意思が見えた。
私の回答用紙に気がつけなかったのか、しっかり反省しているようだ。
それにしても、後ろの席の神崎くんに感謝だ。運よくシャーペンを落としてくれたから……
待って、もしかしてわざと落としてくれたのかな? 少しの期待に胸が高鳴る。
しかしすぐに冷静になる。自意識過剰すぎる。
神崎くんはあんまり接点がない。
それに彼みたいに『イケメン』でモテる人が私みたいな陰キャに優しくしてくれるわけがない。
……それでも、彼の優しさだったらとても嬉しい。
***
数学のテストが終わり、1番後ろの席の神崎くんが解答用紙を集めてくれる。
一瞬目が合ったが、神崎くんはすぐに目を逸らして次の人の解答用紙を集めに行く。
やっぱり私が自意識過剰だったんだ。
なんだかショックだった。自分が勝手に期待したくせに馬鹿みたいだと思った。
何気なく後ろを振り向き、彼の席を見る。
シンプルなシャーペンと消しゴムが一本ずつあった。
テストにしては机に出ている文房具が少ないな、そう思ったとき、異変に気がつく。
机の上に短くなったシャー芯が大量にあることを。
何度も折れたのだろうか、それにしてはありすぎる。
後ろから足音がして急いで前を向く。神崎くんとすれ違うときこっそり彼の手を見る。
指先が黒く汚れていた。
まさか、シャーペンが壊れてシャー芯を使っていたんじゃないかと。
もしかして、シャーペンが落ちた時に不具合が生じたんじゃ……
もし、もしもの話だけど私の回答用紙が落ちたことを先生に知らせるために落としてくれていたなら……
それでシャーペンが壊れてシャー芯を直で持っていたとしたら……
先生の話が終わるとすぐに私は後ろを振り向く。
神崎くんと目が合うと、また目を逸らしてぶっきらぼうに言う。
「どうしたの、莉緒さん」
「あ、えっと、シャーペン2本ある?」
驚いた。初めてなのにしたの名前で呼ぶなんて。
それに、声が思ってた以上に低くてかっこいい……
神崎レオ、多分クラスで1番人気な男子だ。
普段は無口であまり女子と話さしていない。それでもクールなところがかっこいいと女子から評価されている。
今までは一軍の女子から目をつけられたくなかったから話すのを積極的に避けていた。
初めて話してみたけど、想像より少し怖いなと思った。
「あー、ごめん。筆箱忘れて予備の一本しかないんだよね」
そっとシャーペンを自分の手で隠しているのに気がつく。
やっぱり壊れているのかもしれない。
「そうなんだ。あの、私シャーペン3本持ってて一本使わないから、使う?」
そういうと神崎くんは申し訳なさそうに首を横に振る。
「大丈夫だよ。一本で足りるから」
「でもっ……壊れてない?」
驚いた表情で私を見据える神崎くん。
私は筆箱からもう一本のシャーペンを取り出し神崎くんの前に出す。
「さっき、解答用紙を落とした時、神崎くんがそのシャーペンを落とさなかったら多分先生は気がついてくれなかった。だから、落としてくれて、ありがとう」
最後は神崎くんのことが直視できなかった。
しばらくすると神崎くんが笑い出す。
なぜ笑い出したのか分からなくて混乱する。
「落としてくれてありがとうって、久々に聞く言葉だなって思ってなんかおかしくって」
神崎くんは楽しそうに話している。
初めて見せてくれた神崎くんの様子に自然と心が惹かれていく。
「じゃあ、借りていい?」
「うん! これ、どうぞ」
そう言って私はシャーペンを彼に差し出す。
神崎くんは「ありがとう」と満面の笑みでいう。
これが、モテる人の笑顔なんだ。
確かにこの笑顔を見たら、好きになっちゃうよ……
***
はらりとテストの解答用紙が床に落ちる。
しまった、と心の中で呟いてから試験監督の先生を見据える。
先生は信じられないが今にも寝そうな様子だった。
何度もコクリコクリと頷いている。
まだ半分も書ききれていない、先生を起こそうにしても今はテスト中だし声を出すことができない。
ーーもしかして私詰んだのかな?ーー
今回の数学は1番勉強したから自信があったのに、悔しさと何もできない自分が嫌になる。
ここは勇気を持って声を上げるしか……でもみんなの視線を集めることになるし恥ずかしい。
やっぱりこのまま終わるのを待つべき? そう思った途端、後ろから音がした。
カランッーーきっとシャーペンが落ちたのだと思う。
静寂な教室に響き渡り、生徒が一瞬ビクッと驚いている。
それは先生も同様で、少しだけ跳ね上がって起きていた。
辺りをキョロキョロしてからまっすぐに私の列へやってきた。
先生は私の後ろの席で止まってシャーペンを拾っていた。
そのとき、私の回答用紙があることにも気がついて一緒に拾ってくれた。
先生が戻ると今度は目がパッチリしていて、寝まいという意思が見えた。
私の回答用紙に気がつけなかったのか、しっかり反省しているようだ。
それにしても、後ろの席の神崎くんに感謝だ。運よくシャーペンを落としてくれたから……
待って、もしかしてわざと落としてくれたのかな? 少しの期待に胸が高鳴る。
しかしすぐに冷静になる。自意識過剰すぎる。
神崎くんはあんまり接点がない。
それに彼みたいに『イケメン』でモテる人が私みたいな陰キャに優しくしてくれるわけがない。
……それでも、彼の優しさだったらとても嬉しい。
***
数学のテストが終わり、1番後ろの席の神崎くんが解答用紙を集めてくれる。
一瞬目が合ったが、神崎くんはすぐに目を逸らして次の人の解答用紙を集めに行く。
やっぱり私が自意識過剰だったんだ。
なんだかショックだった。自分が勝手に期待したくせに馬鹿みたいだと思った。
何気なく後ろを振り向き、彼の席を見る。
シンプルなシャーペンと消しゴムが一本ずつあった。
テストにしては机に出ている文房具が少ないな、そう思ったとき、異変に気がつく。
机の上に短くなったシャー芯が大量にあることを。
何度も折れたのだろうか、それにしてはありすぎる。
後ろから足音がして急いで前を向く。神崎くんとすれ違うときこっそり彼の手を見る。
指先が黒く汚れていた。
まさか、シャーペンが壊れてシャー芯を使っていたんじゃないかと。
もしかして、シャーペンが落ちた時に不具合が生じたんじゃ……
もし、もしもの話だけど私の回答用紙が落ちたことを先生に知らせるために落としてくれていたなら……
それでシャーペンが壊れてシャー芯を直で持っていたとしたら……
先生の話が終わるとすぐに私は後ろを振り向く。
神崎くんと目が合うと、また目を逸らしてぶっきらぼうに言う。
「どうしたの、莉緒さん」
「あ、えっと、シャーペン2本ある?」
驚いた。初めてなのにしたの名前で呼ぶなんて。
それに、声が思ってた以上に低くてかっこいい……
神崎レオ、多分クラスで1番人気な男子だ。
普段は無口であまり女子と話さしていない。それでもクールなところがかっこいいと女子から評価されている。
今までは一軍の女子から目をつけられたくなかったから話すのを積極的に避けていた。
初めて話してみたけど、想像より少し怖いなと思った。
「あー、ごめん。筆箱忘れて予備の一本しかないんだよね」
そっとシャーペンを自分の手で隠しているのに気がつく。
やっぱり壊れているのかもしれない。
「そうなんだ。あの、私シャーペン3本持ってて一本使わないから、使う?」
そういうと神崎くんは申し訳なさそうに首を横に振る。
「大丈夫だよ。一本で足りるから」
「でもっ……壊れてない?」
驚いた表情で私を見据える神崎くん。
私は筆箱からもう一本のシャーペンを取り出し神崎くんの前に出す。
「さっき、解答用紙を落とした時、神崎くんがそのシャーペンを落とさなかったら多分先生は気がついてくれなかった。だから、落としてくれて、ありがとう」
最後は神崎くんのことが直視できなかった。
しばらくすると神崎くんが笑い出す。
なぜ笑い出したのか分からなくて混乱する。
「落としてくれてありがとうって、久々に聞く言葉だなって思ってなんかおかしくって」
神崎くんは楽しそうに話している。
初めて見せてくれた神崎くんの様子に自然と心が惹かれていく。
「じゃあ、借りていい?」
「うん! これ、どうぞ」
そう言って私はシャーペンを彼に差し出す。
神崎くんは「ありがとう」と満面の笑みでいう。
これが、モテる人の笑顔なんだ。
確かにこの笑顔を見たら、好きになっちゃうよ……