LEDの街灯が照らす児童公園。
私は木製のテーブルにつき、ぬるい夜風を感じながら自分の答案と解答を見比べ丸を付けていく。
国語小テスト
[現代文]1.× 2.〇 3.× 4.× 5.× [古典・漢文]6.〇 7.〇 8.〇 9.〇 10.〇
「よしっ」
10問中6問正解。松吉先生のおかげで古典、漢文の問題はほとんど解けるようになった。だけど。
「やっぱ現代文が苦手だな。もう一回……」
「もう国語はいい。次は英語」
そういって隣に座る朝は国語の教科書をぱたんと閉じた。
「えぇ」
「今はどれか一つの教科で100点を目指すんじゃなくて、全教科で平均点を目指すような勉強をするべきだろ」
ぐうの音も出ない正論にムカついて、私はそこの自販機で買ったカルピスソーダを音を立てて飲んだ。やけ酒ならぬやけカルピスソーダだ。
期末テストまで残り二週間。
私は学校終わり、6時まで各教科の先生を捕まえてわからないところを教えてもらい、8時までは図書館で一人で勉強して、そのあとは次の日に寝坊しないように11時までという決まりで、公園で朝に勉強を教えてもらった。
教科書を見ていると、机の上に置かれた朝のノートが目に入った。
朝が一か月間、考えていたグラフィティアートのデザインが描かれたノートだ。
グラフィティはもうしばらくやっていない。夏休みになったら再開する、という私に朝も付き合ってくれている。
あぁでも、スプレーの感触が懐かしいなぁ。
私はほわほわん、とグラフィティのことを思い返していると、朝に頭をはたかれた。
「集中!」
私は朝をキッとにらみつけ、カルピスソーダを飲み干した。
あっという間に二週間が過ぎ去った。
私は人生で一番勉強して、人生で一番頑張ったと胸を張って言える二週間だった。
つらかったし、何度も心が折れそうにもなったけど、そのたびに松吉先生と、朝のことを想って踏ん張った。
私のことを応援してくれる人のために、私自身の夢のために、私は絶対に高校を卒業するんだ。
そうして私は期末テスト本番を迎えた。
期末テストは全8教科を三日間に分けて行われる。
初日は数学と理科と美術、二日目は保健体育と音楽と英語だった。
数学と理科は山が当たって正直手ごたえがある。英語は微妙だが、赤点は免れたと思う。
ほかの副教科たちは事前に配られたプリントを丸暗記すればいいだけの内容で助かった。
そして今日が最終日。残すは国語と社会だ。
ぎりぎりまで出題範囲をまとめたノートを見返していると、テスト監督の松吉先生が入ってきた。
松吉先生と目が合い、私はうんと頷くと、松吉先生もやさしく頷いた。
「テストを始める前に、机の引き出しのものはすべてカバンの中かロッカーにしまってください。スマートフォンの電源は消してくださいね」
みんながいっせいに引き出しの中に手を入れたり、教科書を仕舞うためにロッカーへ向かったりと騒がしくなる。
私もノートをカバンへ入れると、スマホに手が触れ画面が光ったのに気がついた。
あぶない。電源を消すのを忘れていた。
カバンの中でスマホの電源を消そうと、パスワードを解除するとメッセの通知が来ているのに気がついた。
『助けて』
それは、姫香からのメッセだった。私は頭が真っ白になって、姫香とのトーク画面を開く。
メッセージが送られていたのは午前4時過ぎ。『助けて』のあとに続いて『今すぐ来て』とも送られていた。
『大丈夫?』
そう送っても、既読はつかない。
「河西さん?」
名前を呼ばれ顔を上げると、私以外の全員、テストを受ける準備が終わっていた。
私はテストを受ける。これからも高校に通って、卒業して、大学に通う。そうしなければ、私の夢は叶えられない。
私の夢は松吉先生みたいな先生になること。
だから、だから……。
「やるじゃん」
姫香の笑った顔が脳裏をよぎる。
ごめん。
私はスマホをカバンの奥へ投げ入れ、カバンを持って立ち上がる。
「ごめん、先生」
私は教室を飛び出した。
私は木製のテーブルにつき、ぬるい夜風を感じながら自分の答案と解答を見比べ丸を付けていく。
国語小テスト
[現代文]1.× 2.〇 3.× 4.× 5.× [古典・漢文]6.〇 7.〇 8.〇 9.〇 10.〇
「よしっ」
10問中6問正解。松吉先生のおかげで古典、漢文の問題はほとんど解けるようになった。だけど。
「やっぱ現代文が苦手だな。もう一回……」
「もう国語はいい。次は英語」
そういって隣に座る朝は国語の教科書をぱたんと閉じた。
「えぇ」
「今はどれか一つの教科で100点を目指すんじゃなくて、全教科で平均点を目指すような勉強をするべきだろ」
ぐうの音も出ない正論にムカついて、私はそこの自販機で買ったカルピスソーダを音を立てて飲んだ。やけ酒ならぬやけカルピスソーダだ。
期末テストまで残り二週間。
私は学校終わり、6時まで各教科の先生を捕まえてわからないところを教えてもらい、8時までは図書館で一人で勉強して、そのあとは次の日に寝坊しないように11時までという決まりで、公園で朝に勉強を教えてもらった。
教科書を見ていると、机の上に置かれた朝のノートが目に入った。
朝が一か月間、考えていたグラフィティアートのデザインが描かれたノートだ。
グラフィティはもうしばらくやっていない。夏休みになったら再開する、という私に朝も付き合ってくれている。
あぁでも、スプレーの感触が懐かしいなぁ。
私はほわほわん、とグラフィティのことを思い返していると、朝に頭をはたかれた。
「集中!」
私は朝をキッとにらみつけ、カルピスソーダを飲み干した。
あっという間に二週間が過ぎ去った。
私は人生で一番勉強して、人生で一番頑張ったと胸を張って言える二週間だった。
つらかったし、何度も心が折れそうにもなったけど、そのたびに松吉先生と、朝のことを想って踏ん張った。
私のことを応援してくれる人のために、私自身の夢のために、私は絶対に高校を卒業するんだ。
そうして私は期末テスト本番を迎えた。
期末テストは全8教科を三日間に分けて行われる。
初日は数学と理科と美術、二日目は保健体育と音楽と英語だった。
数学と理科は山が当たって正直手ごたえがある。英語は微妙だが、赤点は免れたと思う。
ほかの副教科たちは事前に配られたプリントを丸暗記すればいいだけの内容で助かった。
そして今日が最終日。残すは国語と社会だ。
ぎりぎりまで出題範囲をまとめたノートを見返していると、テスト監督の松吉先生が入ってきた。
松吉先生と目が合い、私はうんと頷くと、松吉先生もやさしく頷いた。
「テストを始める前に、机の引き出しのものはすべてカバンの中かロッカーにしまってください。スマートフォンの電源は消してくださいね」
みんながいっせいに引き出しの中に手を入れたり、教科書を仕舞うためにロッカーへ向かったりと騒がしくなる。
私もノートをカバンへ入れると、スマホに手が触れ画面が光ったのに気がついた。
あぶない。電源を消すのを忘れていた。
カバンの中でスマホの電源を消そうと、パスワードを解除するとメッセの通知が来ているのに気がついた。
『助けて』
それは、姫香からのメッセだった。私は頭が真っ白になって、姫香とのトーク画面を開く。
メッセージが送られていたのは午前4時過ぎ。『助けて』のあとに続いて『今すぐ来て』とも送られていた。
『大丈夫?』
そう送っても、既読はつかない。
「河西さん?」
名前を呼ばれ顔を上げると、私以外の全員、テストを受ける準備が終わっていた。
私はテストを受ける。これからも高校に通って、卒業して、大学に通う。そうしなければ、私の夢は叶えられない。
私の夢は松吉先生みたいな先生になること。
だから、だから……。
「やるじゃん」
姫香の笑った顔が脳裏をよぎる。
ごめん。
私はスマホをカバンの奥へ投げ入れ、カバンを持って立ち上がる。
「ごめん、先生」
私は教室を飛び出した。