ーーー 季節はあっという間に、冬の装いを見せはじめた。小説の方も順調に進み、あとは添削作業のみといった所だ。

もう少しで夏樹に、僕の自信作となる作品を読んでもらえる。そして、それは僕からの告白を意味することになる。

高揚感と、多少の不安を抱えつつも、想像を膨らませ、油断すれば、思わず笑みが溢れてしまいそうだ。

「余程、いい出会いがあったみたいだな」

あの日以降、口数は大幅に増えて、食事中もこうして会話のキャッチボールをするようになった。

「え? もしかして、顔に出てる? 」

「ああ。まるで、自分を見ているようだな。俺も、母さんに恋をした時、そんな感じだったらしい。やはり、親子だな」

父さんはそういって微笑む。そして、僕が恋をしているということもお見通しのようで。

「それで、どんな子なんだ? 名前は? いつ家に連れてくるんだ? 」

「いや、気が早いって! えっとね。名前は、夏樹っていってね。名前の通り、とても明るい子だよ」

「夏樹? 」

父さんは、何かを考えるようにして、一瞬食べる手を止める。

「ん? どうかしたの? 」

「あ、いや。何でもない。それでめでたく、初彼女ってわけか? 」

「いや!まだ違うよ!」

「ほ~ん。まだね」

あれから、こうして互いにからかいあうように、それは親子と言うより、友人や兄弟みたいな感覚で、きっと父さんなりに、僕の居場所を作ってくれているのだと思う。

「言っておくけど、仮にもし、付き合えたとして、家には連れてこないからね」

「なぁに、こちらから出向くさ」

なんだか、母さんが居なくなる前よりも、関係が深まったような気がする。

これを事故の功名とは言いたくない。母さんが最期に遺した、幸せの形なんだと思うことにして、それを初めて僕は、家庭と呼ぶ事ができた。