ーーー 「父さん。話があるんだ。聞きたいことがあるんだ」

翌日、僕は夕食を終えて、父と対面にダイニングチェアに腰をかけていた。

「どうした? 改まって? 」

父は虚をつかれたように、瞳を大きく見開く。

「遠慮なく言って欲しい。真実だけを言って欲しい」

深刻な表情の僕に、意図を察したかのように1度父は頷いた。

「父さんはさ。僕の事、恨んでいるんじゃない? 」

たったその一言。それだけで、ただでさえ張りつめた空気が、微動だに出来ないほどの緊張感で包まれる。

父は、ふぅとひとつ息を吐くと、久しぶりに微笑んで見せてくれた。

「あのな、夕夜。俺は、お前の事を、恨んでなんかない。俺が気がかりだったのは、お前がそうやって、自分を責め続けている事だ。父さんは、昔から口下手で、気の効いた言葉なんて言えない。だから、お前の気が張れるならと、今まで、好き勝手やらせてきた。何やら最近、お前の様子が変わったと思ったが、何かあったのか? 」

終始、穏やかな口調で諭す父。やはり親には敵わないと再認識する。

「参ったな。何でも分かるんだね。うん。実は、ある人に出会って。なんと言うか、見つけたんだ。在るべき姿を」

思い浮かべた胸を焦がす笑み。

「そうか。夕夜。こうして、話をしてくれてありがとう。これからも、変わらずに、放任でお前を見ていくつもりだ。ただ、間違いないで欲しい。それは、鬱陶しく思っているからじゃない。自由に生きて欲しいからだ。そして、困ったことがあれば、いつでも言って欲しい。たった2人の家族だ。いいや、違うな……。3人だ」

「父さん………。ありがとう……」

僕は父に一度笑いかけると、逃げるように自室に駆け込んだ。泣き顔を見られてしまわないように。

こんなにも簡単な事だったのだ。それなのにずっと逃げてきた。そんな僕を、意も介せずに受け入れてくれた。

あんなにも息苦しくて、冷たいと感じていた家庭は、僕の思い込みだったのだ。こんなにも、息がしやすい。温かく心を灯す。

父が最後に3人と言い換えた意味が、(ここ)にある。それだけでまた1つ、僕は強くなれるような、この世界を好きになれるような、そんな気がした。