ーーー 厚着をして、カイロを貼って、ようやく寒さに耐える事ができるほど、夜の気温は地を這っている。
いつもなら、もう夏樹が到着するであろう時間。今日は、夏樹の姿はまだない。
これまで何回かあったことなのに、その度に心が落ち着かなくなる。
夜の闇が、独りだと急に恐怖心を刺激する。心細さに、風の冷たさが纏わりつく。
その風が揺らす木々のせせらぎも、妖怪の呻き声のように聞こえて、五感が勝手に研ぎ澄まされる。
異変を探るように、本当はあるはずもない怪奇を探るように、目を凝らし、耳をすませる。
すると、そんな僕の耳に、風が揺らす音ではない、草木を掻き分けるように、真っ直ぐにこちらに向かってくるざわめきが聞こえてくる。
一瞬、夏樹かと思ったが、これまで、こんな登場はしたことはなかった。僕を驚かせようとしているのか? そうも考えてみた。
しかし、今の僕の状況下で、その認識は、怪奇と重なって、その恐怖心から、幽霊や妖怪よりも怖い、最悪を想像してしまう。
この山には生息していないと聞いていたが、誰もまだ姿を見ていないだけかもしれない。そう。何よりも恐ろしい熊という存在。
僕は、恐怖で足がすくみ、1歩も動けずにいた。
その間も徐々に迫るそのざわめきに、心臓がうるさいくらいにテンポを速める。
思考も儘ならない。そんな僕の目の前に飛び出してきた影は、熊とも似ても似つかない、小さな体だった。
「夏樹!」
そう、見紛うはずもない。それは、今一番会いたかった人の姿だ。
夏樹は、肩で息をしながら、僕に駆け寄ってくる。
「夏樹? どうしたの? そんなに慌てて」
「小説………」
「え?」
「小説を……。読ませて」
「小説?」
急な申し出に僕は困惑する。終結はしているが、まだ完成はしていない物語だ。できれば添削を重ねた、完成形を読んで欲しい。
「でも、まだ添削してなくて」
「それでもいい! お願い! 読ませて!」
そんな必死な懇願に、断る理由を失った僕は、スマートフォンで、直ぐ様、投稿サイトの作品を「公開」に変えて、夏樹に教える。
「ありがとう! ごめん!今から帰って読むね!」
「え? ちょっと! 」
僕の制止は届いていないかのように、夏樹は再び走り出して行ってしまう。
残された僕は、寒風に当てられながら、台風一過に呆然とする。
「何だったんだよ…………あ!」
そして、冷静になった頭でようやく気づく。夏樹に向けたラブレターのような小説。
僕の心の準備も無く、僕はあっさりと告白してしまったということになる。
気がつけば、さっきまでの恐怖心は皆無で、寒さも感じない程、体温が上昇していた。
いつもなら、もう夏樹が到着するであろう時間。今日は、夏樹の姿はまだない。
これまで何回かあったことなのに、その度に心が落ち着かなくなる。
夜の闇が、独りだと急に恐怖心を刺激する。心細さに、風の冷たさが纏わりつく。
その風が揺らす木々のせせらぎも、妖怪の呻き声のように聞こえて、五感が勝手に研ぎ澄まされる。
異変を探るように、本当はあるはずもない怪奇を探るように、目を凝らし、耳をすませる。
すると、そんな僕の耳に、風が揺らす音ではない、草木を掻き分けるように、真っ直ぐにこちらに向かってくるざわめきが聞こえてくる。
一瞬、夏樹かと思ったが、これまで、こんな登場はしたことはなかった。僕を驚かせようとしているのか? そうも考えてみた。
しかし、今の僕の状況下で、その認識は、怪奇と重なって、その恐怖心から、幽霊や妖怪よりも怖い、最悪を想像してしまう。
この山には生息していないと聞いていたが、誰もまだ姿を見ていないだけかもしれない。そう。何よりも恐ろしい熊という存在。
僕は、恐怖で足がすくみ、1歩も動けずにいた。
その間も徐々に迫るそのざわめきに、心臓がうるさいくらいにテンポを速める。
思考も儘ならない。そんな僕の目の前に飛び出してきた影は、熊とも似ても似つかない、小さな体だった。
「夏樹!」
そう、見紛うはずもない。それは、今一番会いたかった人の姿だ。
夏樹は、肩で息をしながら、僕に駆け寄ってくる。
「夏樹? どうしたの? そんなに慌てて」
「小説………」
「え?」
「小説を……。読ませて」
「小説?」
急な申し出に僕は困惑する。終結はしているが、まだ完成はしていない物語だ。できれば添削を重ねた、完成形を読んで欲しい。
「でも、まだ添削してなくて」
「それでもいい! お願い! 読ませて!」
そんな必死な懇願に、断る理由を失った僕は、スマートフォンで、直ぐ様、投稿サイトの作品を「公開」に変えて、夏樹に教える。
「ありがとう! ごめん!今から帰って読むね!」
「え? ちょっと! 」
僕の制止は届いていないかのように、夏樹は再び走り出して行ってしまう。
残された僕は、寒風に当てられながら、台風一過に呆然とする。
「何だったんだよ…………あ!」
そして、冷静になった頭でようやく気づく。夏樹に向けたラブレターのような小説。
僕の心の準備も無く、僕はあっさりと告白してしまったということになる。
気がつけば、さっきまでの恐怖心は皆無で、寒さも感じない程、体温が上昇していた。