それからもいろいろ問題は起こった。
「それで歌奈ちゃんはどのキャラが好きなの?」
「え、えっと……」
「早くしてよー。みんなでキーホルダー買うって決めたでしょ?」
 私が十歳になったころ、変身ヒロインもののアニメが大ヒットした。
『アルティメット・アイドル50』というタイトルで、その名どおり、キャラクターが五十人もいるのだ。
「私はアルティメット・ローズだな。リーダーだし!」
「あたしはアルティメット・アイリス! クールでカッコいいもん」
 みんなそれぞれの押しキャラがいたけど、私は五十人の中からひとり選ぶことなんてとてもできなかった。
 どうしよう。どのキャラもみんな好きだから、誰かひとりなんて言われても……。
「ちょっと、早くしてよ。もう一時間もここにいるじゃん」
「あたし、他のお店も見に行きたいんだけどな」
 いら立つ友だちの声に、プレッシャーは増すばかり。
「じゃあ、これ!」
 やっと選んだキーホルダーを手に取ってみたら。
「アルティメット・ライム? 私とかぶってるじゃん。どうせなら他のにしなよ」
 と、バッサリ言われちゃって……。
 どっちがいい? と聞かれて、バパがいいと答えたら、
「ママにしなさい」
 と諭され、
 なにが食べたい?と聞かれて、これが食べたいと答えたら、
「別のにしなさい!」
 と怒られ、
 早く決めろ!と促されて、いざ決めたら、かぶってるからやめてと嫌がられ。
 世の中に選択肢はいくらでもあるのに、なんでもいいって言われるのに、どれかひとつを選んだら、きまって否定されたり怒られたりうまくいかなかったりするんだろう。
 こんな目にばっかり遭うんだったら、自分で決めるよりもあらかじめ誰かに決められた人生のほうがよっぽどラクだ。
 そう思いはじめていた十二歳のとき。春の遠足でプラネタリウムに出かけた。
「あのあたりに浮かんでいるのはしし座。しし座の胸のあたりで光っているのはレグルスという一等星です」
 春の大三角形の説明だ。それなら、もう知ってる。ここのプラネタリウムは、何度か訪れたことがあるので、私にとってはめずらしくもなかった。
 ところが。
「さあみなさん、南の空をごらんください。ひときわ強く輝く、美しい星が見えるでしょう。あれがおとめ座の一等星スピカ。私のいちばん好きな星です」
 えっ。
 解説員のひとことが、うとうとしていた私の目をハッと覚まさせた。
 私の、いちばん、好きな星?
「信じられなかった。星ってこの宇宙に数えきれないほど存在してるのに、そのなかからいちばんを選べるなんて、それがすっごくショックだったの」