「花、どうしたの?」

 心配そうな顔をするお母さん。

「ううん、何でもない」

 私は無理して笑顔を作った。

「お父さんのことを思い出すわ」

 懐かしそうな顔をするお母さん。

 そういえば、お母さんとお父さんは同じ高校だったんだっけ。

 きっとお父さんも新聞部でこういう展示をしたんだろうな。

 私はふとお母さんに尋ねてみた。

「ねえ、お母さんは、何でお父さんと結婚したの?」

「えっ? そうねぇ」

 お母さんは照れたように笑ったあと、窓から空を見上げて語り出した。

「お父さんはね、すごくかっこよくてモテモテだったの。だから私、最初は身を引こうと思ってたの」

「そうなの?」

「うん。それにお父さんは毎日家に帰ってくるのも遅くて、結婚しても幸せになれないかもって思ってた」

 まさかお母さんが、お父さんのことをそんな風に思っていただなんて。

「それなのにどうしてお母さんはお父さんと結婚したの?」

 私が尋ねると、お母さんは遠い目をして答えた。

「確かに、他のもっと良い人と結婚したいなって思ったりしたこともあったわ。でも結局、お母さんはお父さんのことばかり考えてた。お父さんのことばかり目で追ってたの」

 お母さんが照れたように笑う。

「結局、好きになるのって理屈じゃないのよね」

 お母さんの言葉に、はっと顔を上げると、白浜くんの写真が目に飛び込んできた。

 壇上で演説する端正な横顔。

 真摯な眼差し。

 他の誰よりも輝いて、一人だけピントが合ったようにくっきりと見える人。

 キラキラと輝いて、なぜだかどうしようもなく惹きつけられる人。

「……うん、そうだよね」

 私は小さくうなずいた。

 気がついたら目で追ってしまう。

 その人のことばかり考えてしまう。

 理由なんてない。

 それがきっと恋なんだ。