私たちはハッと口をつぐみ身を潜めた。
二人の姿が見えなくなった後で、紬くんは小声で私に詰め寄る。
「あれは浮気ですよ、絶対。僕が調べてみましょうか?」
「いいよ。私が直接白夜くんに聞いてみるから」
「でも……僕がこういうこと言うのもアレなんですけど、生徒会長は他にも何か隠していると思うんです」
「何かって、何を?」
私の問いに、紬くんは動揺したように横を向いた。
「それはまだ分かりませんけど……同じ男としてのカンです。先輩、上手く騙されているか利用されているだけだと思うんです」
利用されている?
そんなの当たり前じゃん。
だって、私たちは最初から嘘の彼氏彼女なんだから。
そこまで考えて、なぜだか胸がズキリと痛んだ。
私は無理やり笑顔を作った。
「そうかもしれないけど……これは私たちの問題だから、紬くんは気にしないで」
「でも先輩――」
「いいの。お願いだからそっとしておいて」
「良くありません」
紬くんがピシャリと言った。
「先輩、僕だったら先輩を不幸にはさせない」
「つ、紬くん――」
気がついたら、私は紬くんに抱きしめられていた。
えっ、ど、どういうこと⁉
私が混乱していると、紬くんは熱っぽい口調で続けた。
「先輩、僕は先輩が好きです。生徒会長と別れて、僕と付き合ってください」
真っ直ぐな瞳。
頭の中が真っ白になる。
えええええっ!?
まさか、紬くんが私のこと――。
「えっ、あの、私」
「返事は今じゃなくていいので、ゆっくり考えてください」
私が戸惑っていると、紬くんはペコリと頭を下げた。
「先輩を幸せにするのは、生徒会長じゃない。僕です」
そう言って走り去る紬くん。
私は信じられない気持ちでその場に立ちつくした。