「あっ、五十鈴せんぱーい!」

 廊下の向こうから走ってきたのは、紬くんだった。

「紬くん、どうしたの?」

「どうしたもこうしたもないですよ! この記事のことで生徒会長に一言言おうと思っててるんです」

 日報を手に怖い顔をする紬くん。

「べ、別にいいよ紬くんは気にしなくて。こんな記事、ウソっぱちに決まってるし」

「でも――」

 すると一階の廊下の奥、音楽室の前に見慣れた後ろ姿を見つけた。白浜くんだ。

「失礼しました」

 頭を下げて音楽室から出てくる白浜くん。


「おかしいですね。音楽の授業でもないのにどうして音楽室に?」

 眉間にしわを寄せる紬くん。

「しっ、隠れて」

 私は紬くんの腕を引っ張ると慌てて柱の陰に隠れた。

 ガラリとドアが開いて音楽室からアユ先生が出てくる。

「白浜くん、これ、昨日の忘れ物よ」

 白浜くんにペンケースを渡すアユ先生。

「ありがとうございます。それと、昨日はすみませんでした。わざわざ車で送ってもらって」

「ううん、いいのよ。夜遅くに一人だと危ないしね」

「それでは、失礼します」

 白浜くんがペンケースを受け取りこちらに歩いてきた。