「花は紫色が好きなの?」
ふと白浜くんが尋ねてくる。
「え?」
「いやほら、いつもしてる時計も紫だし」
白浜くんが私の時計を指さした。
確かに私がいつもしている腕時計もベルト部分がラベンダー色だった。
私は慌てて首を横に振った。
「ううん、別にそういうわけじゃないよ。これはたまたま安売りしてたのを買っただけ。本当はもっと黒とか銀とか茶色とか地味な色のほうが良かったんだけどこれしか残ってなくて」
うちの学校、普通の教室には時計があるんだけど、理科室とか家庭科室とか、移動教室になるとなぜか時計のない部屋が結構あるんだよね。
だから生徒の中には私も含め結構腕時計をしている人がいるんだ。
沙雪ちゃんなんかは授業中でも平気でスマホで時間確認しちゃうんだけどね。
「ふうん、そうなんだ。でも似合ってるよ、その色」
「あ、ありがと……」
白浜くんに服を褒められるなんて、なんか変な感じ。
でも良かった。
普段は制服だし、私は土日もあまり出かけないからデートに来ていくような私服をあんまり持っていない。
この服も急遽沙雪ちゃんに借りたから似合わないかなって思ったんだけど、とりあえず変ってわけじゃなさそう。
私は生まれて初めてのデートになんだか春の陽気みたいにフワフワした気持ちで駅前を歩いた。