「花っ、お弁当食べよ」

　お昼休み。私が白浜くんのインタビュー記事の原稿をチェックしていると、可愛らしいピンクの包みを持った沙雪ちゃんが声をかけてくれる。

「うん、食べよう」

　私たちは机をくっつけ、お弁当を広げた。

　沙雪ちゃんは意味深な笑みを浮かべながら話しかけてくる。

「そういえば花、白浜くんにお弁当作ってあげてるんだって？」

「それは……自分のを作るついでだから」

　私は歯切れの悪い口調で答えた。

「ええーっ、凄い！　花ってそういうところ家庭的だもんねえ」

　うんうんとうなずく沙雪ちゃん。

　どうやら沙雪ちゃんの中では私は白花くんに尽くすけなげな彼女ということになっているらしい。

　現実はどちらかというともっとドライというか事務的というか契約彼女といった感じなのだけれど。

　紗雪ちゃんが好奇心で満ちた瞳で身を乗り出してくる。

「ねえ、白浜くんって、普段どんな感じなの？」

　普段の白浜くん……ねえ。

　私は普段の白浜くんを思い浮かべた。

　スウェット姿で眼鏡で、お米もろくに炊けずうちに食べ物をたかりにくる……なんて言えるはずがない。

「別に普通だよ。みんなの前でクールに見えるかもしれないけど、中身は普通の男の子って感じというか……」

　私が答えると、沙雪ちゃんが小さくため息をついた。

「いいなあ、花は白浜くんとラブラブで」

　沙雪ちゃんの言葉に、私は慌てて首を横に振った。

「そ、そんなラブラブってほどでもないよ」

　っていうかニセのカップルだし。