まあいいや。

 就任の挨拶の写真は撮れたし、演説の内容も紬くんがメモしてくれた。

 これで一応記事は書けるだろう。

 私は仕方なく撮った写真をチェックしはじめた。

「あ、これすごく良く撮れてない?」

 私はよく撮れた写真を紬くんに見せた。

 キュッと体育館の床と上履きがこすれる音。

 紬くんは女の子みたいに愛らしい顔を少し曇らせた。

「やっぱり五十鈴先輩も、生徒会長みたいな完璧イケメンがいいんですか?」

 へっ?

 私は慌てて首を横にふった。

「いや、確かに白浜くんは顔はいいけど、そんなんじゃないよ」

「本当ですか?」

 紬くんはぱあっと顔を輝かせる。

「うん。私、男の人ってあんまり興味ないし」

 自慢じゃないけど、私は生まれてからこのかた恋というものをしたことがない。

 別に男嫌いってわけじゃない。

 ただ、「ビビっときた」とか「目が合った瞬間体に電流が走った」とか、そういうのがよく分からないだけ。

 そんなの脳内麻薬が作り出す幻覚じゃないのって思う。

 こんなこと言うとすごくドライな人間なんじゃないかって思われるから言わないけどね。

「そうなんですか。ま、僕はそういう先輩のほうが安心ですけど」

 紬くんがホッとしたような顔をする。

 安心って何だろう。

 ま、いっか。