「じゃあ元気そうだし、私、これで帰るね」
私がカバンを持ち部屋を出ていこうとすると、お母さんが引き留める。
「あら、もう帰るの?」
「だって、大したことないんでしょ」
結局、私たちはお母さんにタクシー代を貰ってそのままタクシーに乗り込んだ。
全くもう、人騒がせなんだから。
病院を出ると、私は白浜くんに頭を下げた。
「白浜くん、ごめんね。色々と心配かけて」
「いやいや。でもお母さんの具合が大したことなくて良かった」
白浜くんの言葉に、私は小さくうなずいた。
「うん、ありがとう」
私は車から窓の外を見た。
真っ暗な道に、街の灯りが星のように流れていく。
まるで広大な銀河の中で、私と白浜くんの二人しかいないみたい。
なんだか夢の中にいるような不思議な気分。
それと同時に、私の胸に一気にひやりとするような気持ちが押し寄せてきた。
怖かった。
もし本当にお母さんに何かがあったら――。
私は一人ぼっちになってしまう。
そう考えると私は急に怖くなった。
「花、どうしたの?」
白浜くんが心配そうに私の顔を見つめてくる。
私は慌てて笑顔を作った。
「ううん。白浜くんが本当に冷静で助かったよ。私一人だけだったら、動転してたし、病院になんて来られなかったかも」
「そりゃ、自分の親のことだし、動転もするよ」
「うん、でも白浜くん、すごい頼りになったよ。さすが生徒会長だなって思った」
白浜くんは、一瞬キョトンとした後で、少し照れくさそうに笑った。
「……ありがと」
今まで私、白浜くんのこと、イケメンだから生徒会長に選ばれたんだと思ってた。
でも違う。
こんなふうに、いざという時、頼りになるから白浜くんは生徒会長に選ばれたんだろうな。
私は白浜くんの整った横顔を見つめた。
やっぱり白浜くんってすごい人なのかもしれない。