私は低い声でつぶやいた。

「……っていうかさ、こんなに毎日私のところに来ていいの?」

 頭の中に綾瀬さんの姿が蘇ってくる。

 王子様みたいに爽やかで格好良い白浜くんと、色白で黒髪が綺麗でお姫様みたいな綾瀬さん。

 二人とも成績優秀だし、絵に描いたようにお似合いだった。

 公認のカップルみたいな感じだって沙雪ちゃんも言ってた。

 それなのに、私の部屋になんか来ていいのかな。

「えっ、どういうこと?」

 白浜くんがとぼけた顔をする。

 私はわざとらしくため息をついてみせた。

「だって白浜くんにも彼女とか好きな人とかいるんじゃないの?」

「ああ、それなら別に大丈夫。彼女はいないよ」

「ふうん。じゃあ、綾瀬さんは彼女じゃないんだ」

 私の言葉に、白浜くんはキョトンとした顔をした。

「えっ、綾瀬さん? まさか。綾瀬さんはただの副会長だよ。恋愛感情はない」

 ええっ、そうなんだ。お似合いなのに。意外だな。

「ふーん。じゃあ、『彼女は』ってことは、好きな人はいるの?」

 私が何気なく聞いてみると、白浜くんは一瞬ピタリと動きを止めた。

 あ、まずい。怒ったかな?

 さすがに白浜くんのプライベートにまで踏み込みすぎかな。

 そう思っていると、白浜くんはゆっくりと人差し指を口の前に持ってきて妖しい笑みを浮かべた。

「ナイショ」

 いつもと違って悪戯っぽい目つきの白浜くんにドキリとする。

 何なのあの顔。

 もしかして白浜くんは誰か好きな子がいるのだろうか。

 ……ふーん、そっかあ。

 そりゃあ年頃だし、好きな人の一人や二人いてもおかしくない。

 だけど私はなんだかそわそわと落ち着かない気分になった。