不意に会話は途切れ、少しの間、部屋が静かになる。

 二人で広大な宇宙空間に放り出されたみたいな不思議な気持ちになる。

 私は手料理を夢中で頬張る白浜くんを見つめた。

 本当、白浜くんって学校でのイメージと全然違う。

 学校ではクールというかどこか人との間に壁のある冷たい完璧王子なのかと思ってたけど、話してみると意外と普通の人間なのかな。

 それでも、白浜くんにはまだ少しぎこちなさというか透明な壁みたいなのを感じる。

 きっとミルフィーユみたいに、彼は本当の自分を幾重もの薄い膜で隠している。彼の心の奥深くには誰にも立ち入れないのだろう。

 私がじっと白浜くんの顔を見つめていると、白浜くんが顔を上げ、不思議そうな顔で尋ねてきた。

「どうしたの?」

「う、ううん、別に」

 私は慌てて首を横に振った。

「えーっと、ほら、白浜くん、他の人の料理は苦手って言ってたけど、私の料理は食べて大丈夫なのかなあって思って。さっきから全然警戒しないで食べてるじゃない? だから不思議だなあって」

 私のその言葉に、白浜くんは身を乗り出してくる。

 まるで冬の夜空みたいな、吸い込まれそうなほどに綺麗な瞳。

 私が白浜くんの瞳に見とれていると、白夜くんは小さくつぶやいた。

「だって五十鈴さんって、俺に興味無いじゃん」

「へ?」

 どういうこと?

 私が不思議に思っていると、白浜くんは続ける。

「いや、五十鈴さんって、俺が見つめても、あんまり他の女子みたいにポーッとなったりキャッキャしないじゃん」

 ああ、そういうことか。

「まあ、確かに、イケメンだからってポーッとしたりはしないかな。あ、でも別に白浜くんのことは嫌だからとかじゃなくて――」

 私が言うと、白浜くんはクスリと笑った。

「そっか。良かった」

 そっか。白浜くんからしたら、私みたいに恋愛に縁のないボーツとした子のほうが安心なのかな。

 だよね。もし私が白浜くんのファンなら、ご飯に何入れられるか分からないしね。

 ……そっか。そうだよね。

 でも大丈夫。私は白浜くんを好きにはならない。

 そう簡単に好きになったりしないから。