白浜くんの部屋から帰った私は、急いで何品か料理を作った。

 おひたしにナムル。煮物にお味噌汁。それにデザート。

 台所が狭いから大変だけど、短時間に作れるだけ作ると、私は隣の部屋に突撃した。

 ピンポーン。

 インターホンを推すと、黒ぶちメガネに灰色のスウェット姿の白浜くんが現れた。

「はい?」

 少し気だるげに返事をする白浜くん。

 わっ。

 メガネ姿の白浜くんだ。

 何だかいつもと違う人みたいな白浜くんに戸惑ってしまい、私は少しの間固まってしまった。

「どうしたの?」

 白浜くんが心配そうに私の顔をのぞきこむ。

 いちいち顔が近いんだな、この男は。

 私はコホンと咳払いをすると、気を取り直して尋ねた。

「白浜くん、晩ご飯もう食べた?」

「まだだけど」

「それじゃ、うちでご飯食べない?」

「食べる」

 即答する白浜くん。

 やっぱり。白浜くんのことだから、忙しいとか言ってまだ何も食べてないんじゃないかと思ってた。

 白浜くんは、のそのそとうちに上がりこむと、私が作った料理に目を輝かせた。

「わ、こんなにたくさんいいの」

 あいかわらず、料理を目の前にするといい顔をするなあ。

 私は料理を指さしうなずいた。

「いいよ。元は白浜くんあてに来た野菜やお米なんだから」

「それじゃ遠慮なくいただきます」

 ぺこりと頭を下げて、白浜くんは私の料理を食べ始めた。

「うん、美味しい。五十鈴さんってなんでこんなに料理上手いの」

 私は味噌汁の入ったなべをグルグルとかき回しながら答えた。

「うち、お父さんが亡くなってから、お母さんがずっと働きに出てたから、家事は全部私がやってたんだ」

 私が答えると、白浜くんは少しの間無言になり下を向いた。

「そうだったんだ。なんかごめん、余計なこと聞いて」

「別にいいよ。お父さんが居ないこと気にしてないし。亡くなった時もまだ小さかったから悲しいとかもそんなによく分かんなかったし」

 私は答えた。