もうすぐ八月も終わりだというのに、黙っていても汗が噴き出すような暑い日だった。

 遠くからは苦しそうなセミの鳴き声がして、私は流れ落ちる汗をハンカチでぬぐった。

 うう……あつうう。

 どうしてうちの学校の体育館には冷房が無いんだろう。

 私は体育館の隅にあるちっぽけな扇風機を睨んだ。

 あんな小さな扇風機で、全校生徒がびっしり詰まったこの体育館が涼しくなるわけがない。

 私は心の中で文句を言いながら、ずっしりと重たい一眼レフカメラをステージに向けた。

 カメラのファインダーをのぞいている間だけは、私は暑さも寒さも忘れられた。

 やがてキーンという音とともに、「あ、あ」とマイクに先生の声が入る。

 はっとして顔を上げると、アナウンスがあった。

「それでは、新生徒会長に選ばれた二年A組の白浜(しらはま)港人(みなと)くん、あいさつをどうぞ」

「はい」

 返事をする声がして、私はごくりとつばを飲み込んだ。
 
 来たっ。

 カメラを持つ手に力が入る。

 一人の男子生徒がステージへと続く階段を上っていくのを、私はカメラ越しにじっと見つめた。

 狭いファインダーの中にいたのは、これ以上ないほど整った顔の男の子だった。