「大きい家具とかはまだ業者と連絡がつかないから運べないけど、先に運べるような小さいものは運んでしまおう。君も何か、遺品としてほしいものがあれば持っていってもいいから」
お父さんが私に向かってそんなことを言う。
――遺品。
持ち帰りたいものなんて何もなかった。
でもここで何も持って行かないと、私の手元には白浜くんに関するものは何も残らないかもしれない。
何か持って行かないと。
白浜くんとの思い出になるものは――。
そう思って部屋の中を探すと、机の上に見覚えのあるインスタントカメラが置かれているのが見えた。
頭の中に、夢の中のあの青井川辺で、インスタントカメラを指さしていた白浜くんの姿がよみがえってくる。
気が付くと、私は反射的にインスタントカメラを手を伸ばしていた。
思えば白浜くんは、いつもこのカメラを大事そうに持ち歩いていた。
スマホもあるし、もっと高性能のカメラだってたくさん売っているのに。
「じゃあ、私はこれをもらいます」
私が言うと、白浜くんのお母さんは不思議そうに眼をぱちくりさせた。
「あら、それだけでいいの? もっと他にも――」
「いえ、私はこれだけでいいです」
私はきっぱりと返事をした。
十分だった。
今の私には、これだけで十分だった。
それ以外のものはこの細い日本の腕ではとても抱えられる気がしなかった。