「さすがツンドラの白浜くん」

 沙雪ちゃんがポツリとつぶやく。

 ツンドラの白浜って言うのは完璧王子の生徒会長、白浜くんのあだ名。

 女の子に対して永久凍土(ツンドラ)並みに冷たいって言うのがその由来。

 沙雪ちゃんによると、女の子に対してはクールで特定の彼女を作らないから安心して推せる言うのも白浜くん人気の一因らしいんだけど……。

 私はというと、なぜだか白浜くんに対し猛烈に腹が立っていた。

 あんなに可愛い子が一生懸命作ったんだから、一応受け取っておけばいいじゃん。

 いらないなら家でこっそり捨てればいいだけだし、それをあんな冷たい言い方しなくてもいいのに。

 私がじっと白浜くんを見つめていると、不意に白浜くんがくるりと振り返った。

 バチリと私と目が合ってしまう。

 ――やばい。

 そう思ったけど、なぜだか目がそらせなかった。

 白浜くんの目があまりにも漆黒で、闇のようで、何の表情も読み取れなかったから。

 それはいつも私が見ている『完璧王子』じゃない、初めて見る表情だった。

 冷たい風が吹き、ザワザワと木の葉が揺れる。

 私はその時初めて白浜くんの心の奥深くの隠された場所に、ほんの少しだけ手を触れたような気がした。

「まずいよ花、隠れよ」

 沙雪ちゃんに腕を引っ張られ、ハッとする。

「う、うん」

 慌てて二人で柱の陰に隠れる。

 そしてしばらくして恐る恐る柱の陰から顔をのぞかせると、もうそこに白浜くんの姿はなかった。

「あーあ、行っちゃったね」
「そうだね、残念」

 私たちはがっくりと肩を落とした。

 結局その日、私は白浜くんの取材をすることはできなかった。

 だけど私の心の中には、あの時の白浜くんの夜の海みたいに真っ暗な瞳が脳裏にこびりついて離れなかった。