にこやかに挨拶をする二人をハラハラしながら見まもっていると、お母さんは駅前の小さなギャラリーを指さした。
「ここよ、展覧会の場所」
「へえ、こんなに近くなんだね」
三人でギャラリーの中に入る。
ギャラリーは、駅前のビルの中の一室という感じで、こじんまりとしているけど明るくて清潔だった。
柔らかく陽の光が差し込んでいて、微かにかかるゆったりとした音楽。
真っ白な壁にはお父さんの撮ったキレイな花や空の写真がたくさん飾られていた。
白浜くんが一枚の空の写真を指さす。
「この空の写真、綺麗だね」
「うん。お父さん、空を撮るの好きだったんだ」
「へえ、そうだったんだ」
私たちがそんな話をしていると、ふとお母さんが一枚の写真の前で立ち止まっているのが見えた。
駆け寄ってみると、お母さんが見ていたのは若い女の人の写真だった。
へえ、なんとなく見覚えがある気がするけど、これ誰だろう。
私がよくよくその写真を見てみると、ふと気づく。
あれっ。誰かと思ったら、この写真、若い頃のお母さんじゃない。
そういえばお父さん、前に言ってたっけ。
この世には、写真を撮られるために生まれてきたような人間がいる。
まるでその人にだけピントが合っているように、周りからくっきり浮かび上がって見える人がいる。
そんな存在感のある人間がいるって。
それがお母さんだったんだって。
でも――。
私は目の前の写真をじっと見つめた。
お父さんからその話を聞いた私は、てっきりお母さんの若いころはさぞかし絶世の美女だったんだろうと思ってた。
だけど写真を見る限り、お母さんはそこまで美人なわけでも何かすごいオーラがあるわけでもない。
どちらかというとぽっちゃりで薄い顔で、ブスではないけどその辺にたくさんいそうな顔。
一体どうして、お父さんはお母さんを見て「存在感がある」だなんて思ったんだろう。