嘘みたいに晴れた土曜日。

 私はのそのそとベッドから起き上がると、休日だというのに制服に着替えた。

 お母さんゆずりの黒い直毛を後ろで縛る。

 必要最低限ものを詰め込んだ黒い鞄と、お父さんの形見の大きな一眼レフカメラを持つと、私は部屋を見渡した。

「行ってきます」

 誰にでもなしにつぶやくと、私は家を出てバスに乗りこんだ。

 無言でバスに揺られること十五分。

 バスはとある小さなセレモニーホール前で停まった。

 簡素な建物の前には、親切にも『白浜家葬儀会場』という看板が立てられていた。

 私はその看板を見て初めて今日は白浜くんのお葬式なのだという実感が沸いてきた。

 周りからは、同じ制服を着た生徒たちのすすり泣きが聞こえた。

 私を気遣うように声をかけてきた友人もいた。

 これはさすがに泣いてしまうかもしれない。

 そう覚悟していたけれど、どういうわけか涙は一滴も出てこなかった。

 白浜くんが亡くなったのがあまりに突然で、私にはまだ受け止められなかったからかもしれない。

 あるいは今日の空があまりにも青く高く澄みきって、美しかったからかもしれない。

 ただ乾いた風が胸の中をひりひりと通り過ぎていくだけ。

 空虚な気持ちのまま葬儀会場に入ると、黒いふちのついた白浜くんの大きな写真が見えてきた。

 口元を少し上げ、ほんの少し左を向いた、彼の一番よく映る角度の写真。

 恐らくみんながイメージするであろう、ハンサムでクールで完璧な彼のイメージにピッタリの写真。

 彼がみんなに見せたがっていた顔。

 だけれど私は知っていた。

 これは本当の彼じゃない。

 地球から月の裏側が見えないように、白浜くんにもみんなからは見えない本当の姿があった。

 彼の本当の顔を知っているのは、ひょっとして私だけかもしれない。