春の陽気の中、家の前にキラリと光が反射した。

リンリン。
ドアが開いて中から現れたウィリアムがやわらかな笑みを見せた。
「いらっしゃい、入って」

居間の中央に置かれた揺りかごの中には目を閉じて寝息を立てる赤ん坊がいた。
「迎えにいけなくてごめん。今僕だけで見てたから」
小さな指が開いたり閉じたりしたあと、手のひらが弧を描いた。
「弟だよ」

食卓に着くとルネは持っていた紙袋から箱を取り出して置いた。
「これはなに?」
「菓子を焼いたんだ」
「ジョン?」
「私が」

ウィリアムが台所で湯を沸かしはじめ、ルネはその隣に立った。
「手伝う」
「ありがとう」

食卓にカップが二つ並べられると、ウィリアムは菓子の箱を開けた。
中には白く丸い球体が入っていた。
「懐かしいな。昔食べたことがある」
ウィリアムが一つだけつまみ上げた。
「これって地球みたいだよね」
「たしかに丸いけど」
「父さんが言ってたんだ。昔こんな地球があったんだって」
「全球凍結のこと?」
「うん、白は光を反射するから一度凍りはじめるとどんどんそれが広がっていく。それを繰り返して地球は凍りついたって」
「でも、そこから脱却した」
「どうやって抜け出したんだっけ?」
「地中に熱があったから。中は燃えていたんだよ。表面は冷え固まっていても内部ではマグマが流動していた。それが吹き出した。地球自ら突き破って出てきたんだ」
「表面は凍っていても中ではちゃんと熱を持って生きていたんだな」

ウィリアムがルネを見た。
「君もそうだね」
そう言ってルネの頬に触れた。
「白くて、中心は熱を持っている」

白い世界はしだいに色づきはじめる。