これまで周りとどのような距離感で接してきたのか。
居場所を与えてくれたオカノ、アンナ。
同じ目的を持って共に過ごしたイオ、リー。
等身大でいられる友人たち。
彼らをどれだけ理解して、どれだけ自分を見せてきただろう。
そう考えてルネはため息を吐いた。
あのときどんな反応をすればよかったのか、そもそもあれにはどんな意味があったのか、先日のウィリアムの行動をルネはずっと考えていた。
「どうしたの? ぼうっとして、さっき先生睨んでたわよ」
とたんに周囲のざわめきがきこえてきてルネは我に返った。
「ああ、授業ならきこえていたよ」
「あ、そう。それより何かあったの?」
なんでもないと言おうとしてルネは思いとどまった。
「ひとつきいていい?」
「いいわよ」
ドイが笑顔で頷いたのでルネは少し迷いながら切り出した。
「前に私の手にキスをしてくれたことがあったよね」
「そうね。あったわ」
「あれはどういう意味?」
ドイはぽかんとして少し黙ったあと言葉を選ぶように口を開いた。
「そうね、あえて意味をつけるなら親愛かな」
「親愛……」
「あなたと仲良くなりたいって意味よ」
ドイはそう言っていたずらな笑みを浮かべた。
「そういえば、あなたは返してくれなかったわよね」
それをきくとルネはすぐにドイの手を取って席を立った。
「どこに行くの?」
角を曲がって人目につかない場所まで来るとルネは立ち止まって振り返った。
そして掴んでいる手を持ち上げてその手の持ち主をじっと見つめた。
「え?」
戸惑うドイに構わずルネは軽く目を閉じて唇を近づけた。
「ドイには感謝してる。君のお陰でどれだけ救われたか」
ルネが目を開けるとドイは微笑んで頷いた。
「どういたしまして」
外では雨が降っていた。
雨は周囲の雑音を消すように静かに降っていた。
ルネが廊下の窓からそれを眺めていると、後ろから数人の足音が近づいてきた。
そのまま通り過ぎていくかと思われたがそれはちょうどルネの後ろで止まった。
「ルネ、きいたよ!」
「試験の成績、トップだったんだって?」
ルネは自分が話しかけられていることに驚いて振り返った。
そこには話したことはなかったが見知った顔ぶれがあった。
視線を後ろに移すとウィリアムとポールもいた。
「待って、話がしたい」
ルネはこの場を離れようとするウィリアムを呼び止めた。
「どこに行くんだ?」
ルネの後ろでウィリアムが困惑した声を出した。
「できれば人がいない場所がいいんだ」
別棟の手洗い場の前に来るとルネは振り返った。
「中に入ろう」
もともと人気のない場所ではあったが念のため人がいないことを確認したあとルネはウィリアムと向かいあった。
「話があって。このあいだのことだけど」
ウィリアムの手がピクリと動いた。
「あれは……」
「私はあの意味を理解できず返事をしていなかった。今、してもいい?」
そう言うと、ウィリアムは唾を飲み込んで頷いた。
ルネは少し悩んだあとウィリアムの手を取った。
「君は口にしてくれたけどそれはもっと違う関係だと思うんだ。だから……」
ルネはウィリアムの手を取った。
しかしそこからピタリと動かなくなってしまった。
「どうかした?」
ウィリアムが恐る恐るルネを覗き込んできた。
「……君って手が大きいな。私の手とひとまわりは違う」
ルネはウィリアムの手をひっくり返して広げると自分の手を上にかざした。
そしてしばらくそうしていると、とうとうウィリアムがしびれを切らした。
「君、何がしたいの?」
「えと、それは……」
ルネはかざしていた手を下ろしてぎゅっと握りしめた。
「ごめん、やっぱりできない」
ルネは掴んでいた手を離した。
「どうして?」
「わからない。ドイにはできたのに」
ルネは首を振った。
すると急にウィリアムの手が伸びてきて、ルネに触れる寸前で止まった。
「待って、君の理解した意味って、返事ってなんなんだ?」
「だから、君と仲のよい友人でいたいって示したかったんだ」
伸ばされていたウィリアムの手が力なく落ちた。
「違う」
暗く沈んだ声にルネははっと顔を上げた。
「僕は君を友人と思ってあんなことをしたんじゃない」
その言葉にルネは目を見開いた。
「言っとくけど、友人にあんなことはしない! そして君が僕の気持ちに同じように返すつもりがあるのなら手じゃなくて同じ場所にするべきだ!」
声が壁に反響してルネの耳を唸らせた。
そして今度は静かな声が漏れた。
「僕は君のなに?」
「……友人」
ルネがそう言うとウィリアムは踵を返してその場から去っていった。
足音が遠くに消えてからようやくルネは顔を上げた。
視線の先には鏡があり、そこにはこれまで見たこともない自分の姿が映っていた。
居場所を与えてくれたオカノ、アンナ。
同じ目的を持って共に過ごしたイオ、リー。
等身大でいられる友人たち。
彼らをどれだけ理解して、どれだけ自分を見せてきただろう。
そう考えてルネはため息を吐いた。
あのときどんな反応をすればよかったのか、そもそもあれにはどんな意味があったのか、先日のウィリアムの行動をルネはずっと考えていた。
「どうしたの? ぼうっとして、さっき先生睨んでたわよ」
とたんに周囲のざわめきがきこえてきてルネは我に返った。
「ああ、授業ならきこえていたよ」
「あ、そう。それより何かあったの?」
なんでもないと言おうとしてルネは思いとどまった。
「ひとつきいていい?」
「いいわよ」
ドイが笑顔で頷いたのでルネは少し迷いながら切り出した。
「前に私の手にキスをしてくれたことがあったよね」
「そうね。あったわ」
「あれはどういう意味?」
ドイはぽかんとして少し黙ったあと言葉を選ぶように口を開いた。
「そうね、あえて意味をつけるなら親愛かな」
「親愛……」
「あなたと仲良くなりたいって意味よ」
ドイはそう言っていたずらな笑みを浮かべた。
「そういえば、あなたは返してくれなかったわよね」
それをきくとルネはすぐにドイの手を取って席を立った。
「どこに行くの?」
角を曲がって人目につかない場所まで来るとルネは立ち止まって振り返った。
そして掴んでいる手を持ち上げてその手の持ち主をじっと見つめた。
「え?」
戸惑うドイに構わずルネは軽く目を閉じて唇を近づけた。
「ドイには感謝してる。君のお陰でどれだけ救われたか」
ルネが目を開けるとドイは微笑んで頷いた。
「どういたしまして」
外では雨が降っていた。
雨は周囲の雑音を消すように静かに降っていた。
ルネが廊下の窓からそれを眺めていると、後ろから数人の足音が近づいてきた。
そのまま通り過ぎていくかと思われたがそれはちょうどルネの後ろで止まった。
「ルネ、きいたよ!」
「試験の成績、トップだったんだって?」
ルネは自分が話しかけられていることに驚いて振り返った。
そこには話したことはなかったが見知った顔ぶれがあった。
視線を後ろに移すとウィリアムとポールもいた。
「待って、話がしたい」
ルネはこの場を離れようとするウィリアムを呼び止めた。
「どこに行くんだ?」
ルネの後ろでウィリアムが困惑した声を出した。
「できれば人がいない場所がいいんだ」
別棟の手洗い場の前に来るとルネは振り返った。
「中に入ろう」
もともと人気のない場所ではあったが念のため人がいないことを確認したあとルネはウィリアムと向かいあった。
「話があって。このあいだのことだけど」
ウィリアムの手がピクリと動いた。
「あれは……」
「私はあの意味を理解できず返事をしていなかった。今、してもいい?」
そう言うと、ウィリアムは唾を飲み込んで頷いた。
ルネは少し悩んだあとウィリアムの手を取った。
「君は口にしてくれたけどそれはもっと違う関係だと思うんだ。だから……」
ルネはウィリアムの手を取った。
しかしそこからピタリと動かなくなってしまった。
「どうかした?」
ウィリアムが恐る恐るルネを覗き込んできた。
「……君って手が大きいな。私の手とひとまわりは違う」
ルネはウィリアムの手をひっくり返して広げると自分の手を上にかざした。
そしてしばらくそうしていると、とうとうウィリアムがしびれを切らした。
「君、何がしたいの?」
「えと、それは……」
ルネはかざしていた手を下ろしてぎゅっと握りしめた。
「ごめん、やっぱりできない」
ルネは掴んでいた手を離した。
「どうして?」
「わからない。ドイにはできたのに」
ルネは首を振った。
すると急にウィリアムの手が伸びてきて、ルネに触れる寸前で止まった。
「待って、君の理解した意味って、返事ってなんなんだ?」
「だから、君と仲のよい友人でいたいって示したかったんだ」
伸ばされていたウィリアムの手が力なく落ちた。
「違う」
暗く沈んだ声にルネははっと顔を上げた。
「僕は君を友人と思ってあんなことをしたんじゃない」
その言葉にルネは目を見開いた。
「言っとくけど、友人にあんなことはしない! そして君が僕の気持ちに同じように返すつもりがあるのなら手じゃなくて同じ場所にするべきだ!」
声が壁に反響してルネの耳を唸らせた。
そして今度は静かな声が漏れた。
「僕は君のなに?」
「……友人」
ルネがそう言うとウィリアムは踵を返してその場から去っていった。
足音が遠くに消えてからようやくルネは顔を上げた。
視線の先には鏡があり、そこにはこれまで見たこともない自分の姿が映っていた。