九月、ウィリアムは自身の希望する学科に進級した。
「これは希少金属と希土類の主な採掘地を表している。これらは現代の生活に欠かせない資源だ。例えば近年使用量が増え続けている電力の発電や家電製品に使われている」
現在、世界中で行われている発電方法は火力、水力、太陽光、風力などがあるが、そのうちの近年急速に伸びてきた太陽光と風力発電は石油、石炭に次ぐ次世代エネルギーと言われ、その設備にはこの希少金属と希土類元素が使われた。
需要の拡大にともない、その資源確保が各国の政治的課題となり、大陸国ではこの資源の利権をめぐって争いも起こっていた。
その争いは民族紛争にすり替わり断続的に続いているような場所もあった。
「こういう希少金属類は採掘にかかるコストや環境規制によって輸入に頼っているのが現状で、産出国が輸出に制限をかけてしまえばその影響は我国にも及ぶだろう。そうなると他国での争いも他人事ではなくなってくる」
授業が終わると生徒らは昼食を取るために次々と教室を出ていった。
「少しいいかい?」
ウィリアムがちょうど席を立ったときヴァンが声をかけてきた。
「報告があってね。今度あのカプセルの記録が一部公開されることになった」
「そうなんですか」
記録はカプセルごとヴァンが預かったあと専門の研究者たちの手に渡り、その後のことは知らされていなかった。
「それで、ルネにも伝えたいんだがなかなか会わなくてね。いつもどこにいるかな?」
「僕から伝えましょうか?」
「頼めるか? どうも私は避けられているみたいでね」
「え、先生がなぜです?」
ウィリアムが驚いているとヴァンは小さく首を振った。
「……少し気になることがあったんだが、踏み込みすぎたようだ」
「先生はルネのことで何か知っているんですか?」
「いやね、生徒記録を見ていてある施設のことを思い出したんだ」
「ある施設?」
「今はもうないが、その施設の子らは……」
言いかけたヴァンは目線をウィリアムに戻した。
「いや、なんでもない。それじゃあルネによろしく」
ウィリアムはもう少し話をきこうと引き止めたかったがヴァンはすぐに荷物を抱えて教室を出ていった。
校舎から回廊に出ると、ウィリアムの視界にチラチラと光る何かが見えた。
それは動くたびに光を反射し、その行く方へ誘導しているかのようだった。
人気のない別棟の中に入っていくとウィリアムはそこで足を止めた。
たどり着いたのは男子用の手洗い場だった。
ウィリアムはそのまま待ち、ようやく出てきた人物に声をかけた。
「やあ」
声をかけられたルネは声にもならない様子で後ずさった。
「つけたのか!?」
引きつったその顔を見てウィリアムは表情を暗くした。
「話があったんだ」
「話?」
「あとでもよかったけど、ヴァン先生から報告だよ」
「報告?」
「カプセルの記録が今度一般にも公開されるってさ」
「そうなのか」
表情を緩めたルネをウィリアムはじっと見つめた。
「なんだ?」
「なんでも。そういえば資料室の調査が済んだらしいから行ってみないか?」
「これは希少金属と希土類の主な採掘地を表している。これらは現代の生活に欠かせない資源だ。例えば近年使用量が増え続けている電力の発電や家電製品に使われている」
現在、世界中で行われている発電方法は火力、水力、太陽光、風力などがあるが、そのうちの近年急速に伸びてきた太陽光と風力発電は石油、石炭に次ぐ次世代エネルギーと言われ、その設備にはこの希少金属と希土類元素が使われた。
需要の拡大にともない、その資源確保が各国の政治的課題となり、大陸国ではこの資源の利権をめぐって争いも起こっていた。
その争いは民族紛争にすり替わり断続的に続いているような場所もあった。
「こういう希少金属類は採掘にかかるコストや環境規制によって輸入に頼っているのが現状で、産出国が輸出に制限をかけてしまえばその影響は我国にも及ぶだろう。そうなると他国での争いも他人事ではなくなってくる」
授業が終わると生徒らは昼食を取るために次々と教室を出ていった。
「少しいいかい?」
ウィリアムがちょうど席を立ったときヴァンが声をかけてきた。
「報告があってね。今度あのカプセルの記録が一部公開されることになった」
「そうなんですか」
記録はカプセルごとヴァンが預かったあと専門の研究者たちの手に渡り、その後のことは知らされていなかった。
「それで、ルネにも伝えたいんだがなかなか会わなくてね。いつもどこにいるかな?」
「僕から伝えましょうか?」
「頼めるか? どうも私は避けられているみたいでね」
「え、先生がなぜです?」
ウィリアムが驚いているとヴァンは小さく首を振った。
「……少し気になることがあったんだが、踏み込みすぎたようだ」
「先生はルネのことで何か知っているんですか?」
「いやね、生徒記録を見ていてある施設のことを思い出したんだ」
「ある施設?」
「今はもうないが、その施設の子らは……」
言いかけたヴァンは目線をウィリアムに戻した。
「いや、なんでもない。それじゃあルネによろしく」
ウィリアムはもう少し話をきこうと引き止めたかったがヴァンはすぐに荷物を抱えて教室を出ていった。
校舎から回廊に出ると、ウィリアムの視界にチラチラと光る何かが見えた。
それは動くたびに光を反射し、その行く方へ誘導しているかのようだった。
人気のない別棟の中に入っていくとウィリアムはそこで足を止めた。
たどり着いたのは男子用の手洗い場だった。
ウィリアムはそのまま待ち、ようやく出てきた人物に声をかけた。
「やあ」
声をかけられたルネは声にもならない様子で後ずさった。
「つけたのか!?」
引きつったその顔を見てウィリアムは表情を暗くした。
「話があったんだ」
「話?」
「あとでもよかったけど、ヴァン先生から報告だよ」
「報告?」
「カプセルの記録が今度一般にも公開されるってさ」
「そうなのか」
表情を緩めたルネをウィリアムはじっと見つめた。
「なんだ?」
「なんでも。そういえば資料室の調査が済んだらしいから行ってみないか?」