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そろそろ私の記録も終わりを迎えそうです。
私の生きている間に世界は目まぐるしく変わりました。
当時のあのテロを知る者は皆死んでしまいました。
そしてあれだけ世界に権力をふるっていた政府は煙のように姿を消してしまいました。
いえ、まだどこかに潜んでいるのかもしれませんが、もう表舞台に現れることはなくなりました。
しかし世代が入れ替わり人間性をとり戻していった世界に政府の意志は残りました。
やわらかくなった地盤に一気に食い込んで地中深くに根を張るように。

それから、政府は自らのことについて何も記録を残していません。
一部の歴史と知識を消し去り、自らも存在を消してしまいました。
はたしてあの政府は悪だったのか、それは私には判断がつきません。
あくまでも彼らは「彼らにとっての平和」のために存在していたのです。

そしてその意志に抗い、彼らの平和を壊そうとしている私は悪なのかもしれません。
しかし私はあえて事実も歴史も知識も伝えます。
あの塔には人類の負の遺産が眠っています。
政府の手によって隠され抹消されたものは本当にこの世から消滅して、もう発見されることはないのでしょうか。
人類は見つけた。
そしてそれは隠されたとしてもまた発見される可能性を秘めています。
そのときにそれを正しく理解して制御できるでしょうか。
私は知った上で後の人々が判断し選択することを望みます。

最後に、本の隠し場所は工場の地下です。

これで記録を閉じたいと思います。
本歴三〇九六年