「私は車をとめてくるから」
眼鏡の男がそう言い、ウィリアムと長髪の男は自動車を降りた。
目の前には四角い二階建ての建物があり、二人は中に入った。
いくつかの扉を抜け、階段を降り、奥へ進んでいくと通路の反対側から黒い外套の男が一人、ウィリアムたちの方へ歩いてきた。
「イオ、今から?」
やって来た男は長髪の男に向かって話しかけた。
その男の髪は黒く、目は切れ長で肌は青白かった。
「そうだ」
「うまくいくといいね。僕も立ち会いたいけど徹夜明けで今日は帰るよ」
「お疲れ、また明日」
ウィリアムはその男の黒髪を見つめた。
「奇遇だね」
男がウィリアムに話しかけた。
「この国で黒髪は少ないからね」
ウィリアムは男から目を離さずに自分の頭に触れた。
「幸運を祈るよ」
そう言って長髪の男の肩を軽く叩くと黒髪の男はウィリアムたちが来た方へ去っていった。

「俺たちはただ知りたいんだ」
通路をさらに奥へ進む途中で長髪の男が言った。
「君はこの研究が良くないことに関係しないか気にしてるだろ?」
「違うの?」
「さあ。そうなるかもしれない、ならないかもしれない」
「それはいい加減なんじゃ」
「そうだな。でも俺たちは未知の領域を解明したいだけなんだ。ついでにこの研究で生活に役立つ画期的な何かでも見つけられたらいいだろうな」
少し笑いながらそう言って長髪の男は立ち止まった。
「ここだ」
二人はドアの前に来ていた。

カードキーを使い中に入るとそこには最新式と思われるコンピュータや診療台のようなもの、本や書類の山があり、そして香ばしい珈琲の匂いに満ちていた。
「隣の部屋の前で待っていてくれ」
長髪の男が奥にあるドアを指し示した。
ウィリアムはその場所に行くとガラス窓から中を覗いた。
最初に目に入ってきたのは部屋の中央に据えられた大きくて白い卵の形をしたカプセルだった。
カプセルの蓋は開いており、中には人が一人入れるだけの空間があった。

「待たせたな」
長髪の男は髪を後ろでひとつにまとめ、黒い外套の代わりに白衣を身にまとっていた。
「これに着替えてくれ」
ウィリアムは差し出された水色の簡素な衣服を受け取った。
「着替えたらこの中に入って」
卵型のカプセルの中には座席があり、そこに座ると背もたれが倒れ、ウィリアムは仰向けになった。
「何かきいておきたいことはあるか?」
長髪の男がウィリアムを覗き込んで言った。
「……なんでもいいですか?」
「ああ」
ウィリアムは一度じっと黙って少し考えたあとまた口を開いた。
「ここの人たちは黒が好きなの?」
「服のことか? 支給品だよ」
「そうなんだ。みんな着てるからカラスみたいだと思って」
ウィリアムがそう言うと長髪の男はぎこちなく笑った。
「君は少し変わっているな」

カプセルの蓋が閉じられ、少しずつ明かりが消えていき、それとともにウィリアムの意識も薄れていった。
そして長い長い夢を見た。