次の日曜日、ルネとウィリアムは待ち合わせてポールの家へ向かった。
「カプセルは持ってきた?」
「ああ」
ルネは肩からかけていた鞄を軽く叩いた。
「ねえ、今日って寒い?」
ウィリアムがちらりとルネを見た。
「暖かいな」
半袖の麻のシャツを着て涼し気なウィリアムに対してルネは襟付きの長袖のシャツのボタンを上まできっちり留めていた。
「問題ない。早く行こう」
まもなくたどり着いた家の屋根にはいくつもの夜空のように真っ青な板が付いて太陽の光を浴びていた。
中に入ると二人は二階の部屋へ通された。
「先週、北部に住んでいる伯父さんの家に行ったんだ」
ポールがドアを閉めながら言った。
「例の家系図は今そこにあって、もう一度確かめてみたけどルイという名前は一番はじめのその人だけだったよ」
「もしその人が書いたのなら書付けは一千年近く前のものってことになるのか」
それをきいてルネは目を輝かせた。
「そうであればそれは歴史史料として重要なものになる」
部屋の机の上にルネは持ってきたカプセルを置いた。
「これか!」
ポールはしげしげとその置かれたものを眺めた。
「うん、書付けの特徴そのままだな。中に何か入っているみたいだけど、開けてみた?」
「まだだ。開け方の手がかりが欲しくて、それでもう一度記述を確認したいんだ」
「そうか」
ポールが机の引出しから書付けを取り出しそれを受け取ったルネは、ルイがマリからカプセルを託された頁で手を止めた。
「ここだ、私が引っかかったのは。『決して日のもとに晒してはならない』。この言葉がカギかもしれない」
ルネは窓に目をやった。
「あちらがいいだろう」
そう言って太陽の光が差し込む窓辺にカプセルを置いた。
はじめは何も起こらなかったが徐々に表面が半透明から乳白色に変化した。
「色が変わった!」
三人は顔を見合わせた。
ルネは一度カプセルを持ち上げて切れ込みに沿って捻ってみたがこれまでと同じようにびくりともしなかった。
「もう少し待ってみよう」
そうして窓辺に戻してまたしばらくすると今度は乳白色から薄い紫へ変化した。
そしてカチリと音がしたかと思うとカプセルが勝手に真ん中から左右に開いた。
「やった!」
中からは平たい円盤の板が現れた。
「これは……」
「メモリディスク。普及し始めたのはそんなに昔じゃないよ」
ポールはがっくりと肩を落とした。
「いや待って、そのメモリディスクは確か遺跡で見つかった遺物をもとに開発されたんじゃなかったか?」
それをきいてポールが勢いよく顔を上げた。
「そうだ! じゃあこれはもしかしたらその原型ってことも……」
ルネは二人の会話をききながらもう少しよく見ようと円盤を持ち上げた。
「ルネ、やたら触っちゃダメだ。傷つけるとデータが開けなくなるかもしれない」
気付いたウィリアムが手で制したためルネは大人しく円盤をカプセルに戻した。
「あれで読み込めるか?」
ウィリアムがポールのコンピュータを指さした。
「読み込みには他に外付けの機器がいるから今すぐには無理だ」
それをきいてルネはため息を吐いた。
すると急にウィリアムが立ち上がってカプセルを手に取った。
「学校へ行こう」
「そうか!」
ポールはウィリアムの発言の意図がわかったようにポンと手を叩いた。
「この前できたコンピュータ室だよ。そこなら外付けの機器もあるはずだ」
休日の校内は閑散としていた。
しばらく校舎を見てまわったが、生徒はおろか教師の姿も見当たらなかった。
「管理小屋に行こう。そこに誰かいるはずだ」
管理小屋は本校舎から向かって左側の校舎のすぐ横に建っていた。
小さな円屋根の建物でそこに管理人が住んでいる。
ルネたちはそのドアの前に行き横の呼び鈴を鳴らした。
そして中から物音がして出てきた人物に三人は目を丸くした。
「ヴァン先生!?」
ウィリアムとポールが声を上げた。
「どうしてここに?」
「九月からここで教えることになってね。今は休暇を取ってる管理人の代理をしている。それより君たちこそ休みにどうしたんだ?」
「実は別棟のコンピュータ室を使いたいんです」
ヴァンはそれをきいて腕を組んだ。
「それは管理人に言うのではなく学校の教師にききなさい」
「そうですね。でも休みで誰もいなくてここに来たんです」
それからウィリアムは微笑んで続けた。
「先生はこの学校の教師ですよね?」
「いや、私はまだ正式に着任してないんだが……。少し待ってくれ」
そう言ってヴァンは部屋の奥へ行き、しばらくしてまた戻ってきた。
「使い方はわかるのかい?」
「はい、家で使っているので」
ポールが胸を張って答えた。
「そうか、先ほど電話で管理人に確認してみたが構わないだろうということだった」
ヴァンは三人にそのまま待つように言って鍵を持って外に出てきた。
ウィリアムとポールが別棟に向けて前を歩く後ろでヴァンがルネの横に立って囁いた。
「君の誕生日は一月一日なんだってね」
戸籍上ルネの誕生日はそうなっていたが、アンナに教わった誕生日とどちらが正しいのか、今となっては確かめようがなかった。
「それがなにか?」
「いや」
ヴァンはそれ以上何も言わなかったが、ルネは顔を曇らせた。
「私は管理小屋に戻るから終わったら知らせてくれ」
別棟の二階に着くと鍵を開けたヴァンが振り返って言った。
「はい、ありがとうございます」
ヴァンが階段を降りていくと三人は中に入った。
「じゃあさっそくやってみるか」
コンピュータがずらりと並ぶなか、ポールはそれらの中からひとつを選んで電源を入れた。
カプセルはいつの間にか半透明に戻り再び閉じてしまっていた。
もう一度同じ方法で開いて取り出した円盤をポールが機器に読み込ませると、カタカタという音とともに新たに画面が立ち上がった。
「うまくいった!」
ポールが胸の前で手を握りしめた。
「でも遺跡のデータは大半が破損していたらしい」
ルネはラジオできいた内容を思い出しながら言った。
「そうか」
ポールが手を下ろした。
そうしているうちに画面いっぱいに文字が表示されはじめた。
三人は息をのんでそれを見つめた。
記録は次の一文からはじまった。
「カプセルは持ってきた?」
「ああ」
ルネは肩からかけていた鞄を軽く叩いた。
「ねえ、今日って寒い?」
ウィリアムがちらりとルネを見た。
「暖かいな」
半袖の麻のシャツを着て涼し気なウィリアムに対してルネは襟付きの長袖のシャツのボタンを上まできっちり留めていた。
「問題ない。早く行こう」
まもなくたどり着いた家の屋根にはいくつもの夜空のように真っ青な板が付いて太陽の光を浴びていた。
中に入ると二人は二階の部屋へ通された。
「先週、北部に住んでいる伯父さんの家に行ったんだ」
ポールがドアを閉めながら言った。
「例の家系図は今そこにあって、もう一度確かめてみたけどルイという名前は一番はじめのその人だけだったよ」
「もしその人が書いたのなら書付けは一千年近く前のものってことになるのか」
それをきいてルネは目を輝かせた。
「そうであればそれは歴史史料として重要なものになる」
部屋の机の上にルネは持ってきたカプセルを置いた。
「これか!」
ポールはしげしげとその置かれたものを眺めた。
「うん、書付けの特徴そのままだな。中に何か入っているみたいだけど、開けてみた?」
「まだだ。開け方の手がかりが欲しくて、それでもう一度記述を確認したいんだ」
「そうか」
ポールが机の引出しから書付けを取り出しそれを受け取ったルネは、ルイがマリからカプセルを託された頁で手を止めた。
「ここだ、私が引っかかったのは。『決して日のもとに晒してはならない』。この言葉がカギかもしれない」
ルネは窓に目をやった。
「あちらがいいだろう」
そう言って太陽の光が差し込む窓辺にカプセルを置いた。
はじめは何も起こらなかったが徐々に表面が半透明から乳白色に変化した。
「色が変わった!」
三人は顔を見合わせた。
ルネは一度カプセルを持ち上げて切れ込みに沿って捻ってみたがこれまでと同じようにびくりともしなかった。
「もう少し待ってみよう」
そうして窓辺に戻してまたしばらくすると今度は乳白色から薄い紫へ変化した。
そしてカチリと音がしたかと思うとカプセルが勝手に真ん中から左右に開いた。
「やった!」
中からは平たい円盤の板が現れた。
「これは……」
「メモリディスク。普及し始めたのはそんなに昔じゃないよ」
ポールはがっくりと肩を落とした。
「いや待って、そのメモリディスクは確か遺跡で見つかった遺物をもとに開発されたんじゃなかったか?」
それをきいてポールが勢いよく顔を上げた。
「そうだ! じゃあこれはもしかしたらその原型ってことも……」
ルネは二人の会話をききながらもう少しよく見ようと円盤を持ち上げた。
「ルネ、やたら触っちゃダメだ。傷つけるとデータが開けなくなるかもしれない」
気付いたウィリアムが手で制したためルネは大人しく円盤をカプセルに戻した。
「あれで読み込めるか?」
ウィリアムがポールのコンピュータを指さした。
「読み込みには他に外付けの機器がいるから今すぐには無理だ」
それをきいてルネはため息を吐いた。
すると急にウィリアムが立ち上がってカプセルを手に取った。
「学校へ行こう」
「そうか!」
ポールはウィリアムの発言の意図がわかったようにポンと手を叩いた。
「この前できたコンピュータ室だよ。そこなら外付けの機器もあるはずだ」
休日の校内は閑散としていた。
しばらく校舎を見てまわったが、生徒はおろか教師の姿も見当たらなかった。
「管理小屋に行こう。そこに誰かいるはずだ」
管理小屋は本校舎から向かって左側の校舎のすぐ横に建っていた。
小さな円屋根の建物でそこに管理人が住んでいる。
ルネたちはそのドアの前に行き横の呼び鈴を鳴らした。
そして中から物音がして出てきた人物に三人は目を丸くした。
「ヴァン先生!?」
ウィリアムとポールが声を上げた。
「どうしてここに?」
「九月からここで教えることになってね。今は休暇を取ってる管理人の代理をしている。それより君たちこそ休みにどうしたんだ?」
「実は別棟のコンピュータ室を使いたいんです」
ヴァンはそれをきいて腕を組んだ。
「それは管理人に言うのではなく学校の教師にききなさい」
「そうですね。でも休みで誰もいなくてここに来たんです」
それからウィリアムは微笑んで続けた。
「先生はこの学校の教師ですよね?」
「いや、私はまだ正式に着任してないんだが……。少し待ってくれ」
そう言ってヴァンは部屋の奥へ行き、しばらくしてまた戻ってきた。
「使い方はわかるのかい?」
「はい、家で使っているので」
ポールが胸を張って答えた。
「そうか、先ほど電話で管理人に確認してみたが構わないだろうということだった」
ヴァンは三人にそのまま待つように言って鍵を持って外に出てきた。
ウィリアムとポールが別棟に向けて前を歩く後ろでヴァンがルネの横に立って囁いた。
「君の誕生日は一月一日なんだってね」
戸籍上ルネの誕生日はそうなっていたが、アンナに教わった誕生日とどちらが正しいのか、今となっては確かめようがなかった。
「それがなにか?」
「いや」
ヴァンはそれ以上何も言わなかったが、ルネは顔を曇らせた。
「私は管理小屋に戻るから終わったら知らせてくれ」
別棟の二階に着くと鍵を開けたヴァンが振り返って言った。
「はい、ありがとうございます」
ヴァンが階段を降りていくと三人は中に入った。
「じゃあさっそくやってみるか」
コンピュータがずらりと並ぶなか、ポールはそれらの中からひとつを選んで電源を入れた。
カプセルはいつの間にか半透明に戻り再び閉じてしまっていた。
もう一度同じ方法で開いて取り出した円盤をポールが機器に読み込ませると、カタカタという音とともに新たに画面が立ち上がった。
「うまくいった!」
ポールが胸の前で手を握りしめた。
「でも遺跡のデータは大半が破損していたらしい」
ルネはラジオできいた内容を思い出しながら言った。
「そうか」
ポールが手を下ろした。
そうしているうちに画面いっぱいに文字が表示されはじめた。
三人は息をのんでそれを見つめた。
記録は次の一文からはじまった。