「では行ってくるから、留守を頼むよ」
コットンが食卓に新聞を置いて席を立った。
そして家を出ていったあと、今度は入れ違いでジョンが慌ただしく台所に入ってきた。
「今日も遅くなりそうです。夕食の支度をお願いします」
「わかりました」
聖夜祭の時期に入り、寺院には礼拝に訪れる信者の出入りが多くなった。
そのためコットンだけでなくジョンも家を空けることが多くなっていた。
「昨年植えつけた野菜が採れたので料理に使ってください」
そう言ってジョンが籠から緑の丸い球体を持ち上げた。
「それは何ですか?」
ルネは目を凝らしながら近寄った。
「見えにくいですか?」
様子を見ていたジョンが眉をひそめた。
「そういえばこの前の病院の検査結果はどうでしたか?」
その問いにルネは思わず視線を下げた。
「……少し視力が落ちていました」
「少し?」
「疲れてるだけだと思います」
「でもこんなに見えにくいのであれば日常生活に不便でしょう。これを機に眼鏡を作ってはどうですか?」


街の商店街にやって来たルネはジョンから教えられた店舗の前で足を止めると硝子窓から中を確認しその中に入った。
店内は眼鏡のレンズが照明に照らされてまばゆいばかりの光となってずらりと並んでいた。
「いらっしゃいませ」
そう言って軽やかな笑みを浮かべた店員が近づいてきた。
「近視用の眼鏡が欲しいのですが」
「かしこまりました。フレームはこれなんかいかがです?」
ルネは店員の差し出してきたものをじっと見つめた。
「この太めのフレームは若い方に人気なんですよ。それともこちらはいかがですか? こちらはサイドに凝った模様が入っていましてさりげないおしゃれが楽しめますよ」
そうして薦めてくる店員の眼鏡に首をひねり続けたルネは、ようやく隅に置かれた一つを見つけて指さした。
「あれがいいです」
ルネが指さしたものを見た店員は口元をへの字に曲げて渋い顔をした。

一週間後、できあがった眼鏡を受け取ったルネはその夜コットンとジョンの前でかけてみせた。
「ちゃんと見えるかい?」
「はい。右目も少し見えやすくなりました」
「それはよかった」
「シルバーのラウンド、司祭の眼鏡のデザインと同じですね」
ジョンがルネとコットンを見比べながらおかしそうに言った。