「次は春休暇明けね」
正門を出てドイと別れたあと、ルネは停留所で次のバスを待った。
標識の影に立って門を出ていく生徒たちの姿を見送っていると、一人遠ざかっていく生徒に気がついてルネは目を凝らした。
そしてルネの足は自然とその生徒を追って動きはじめた。
前を行く生徒は一向に歩みをとめる気配がなく、しばらく歩き続け、とうとう昨日来た建物の前にたどり着いた。
「ウィリアム」
ルネのその声に前を行く生徒は振り返って呆気にとられたように口を開けた。
「ドイが心配していたから気になって。ジョンに電話しないと」
ルネは建物に入り、受付横の公衆電話から電話をかけた。
「昨日言ったばかりでしょう。危ないから帰りなさい」
電話の向こうからジョンの声が響いた。
「でも」
「でもじゃないでしょう。誰と一緒だか知りませんけど……」
ジョンが言い終わらないうちに横から手が伸びてきてルネの手から受話器を奪い取った。
「突然すみません、同級生のウィリアムといいます」
呆然とするルネに構わずウィリアムは話しはじめ、そして電話を切った。
「あ、ジョン」
「話はついた。彼は許可してくれたよ」
階段の前まで来ると前を歩いていたウィリアムが振り返った。
「僕はまたスイミングに行くから」
「あら、ルネ?」
突然声が降ってきてルネは上を見上げた。
「カホリ、こんばんは」
「今日も来てくれたのね。あら今日はお友だちも一緒に参加?」
カホリはウィリアムに視線を移した。
「あ、いえ彼は……」
「ああ、彼氏くんね」
カホリはポカンとする二人に笑みを向けた。
「仲がいいわね」
「いえ、違います」
「そうです、ルネは男の子ですよ」
ウィリアムの言葉に今度はカホリがポカンとした。
「うそ、ごめんなさい。私てっきり……」
「いいんです。今日もよろしくお願いします」
急いでそう言ってルネは階段を上がった。
「ごめんなさいね。勘違いして」
「いえ、大丈夫です。それより」
「なに?」
「あの、私、女に見えますか?」
「そうねえ」
カホリは少し黙ったあと言葉を選ぶようにまた口を開いた。
「中性的な感じ、かしら」
ヨガが終わるとルネは階下の受付の近くでウィリアムを待った。
しかし八時になってもウィリアムは現れなかった。
ルネは様子を見るためプールのある通路奥のドアから中を覗いた。
男子更衣室を見つけるとその前まで行きドアを叩いた。
「ウィリアム、いるか?」
ルネは呼びかけたあと耳をすました。
「誰?」
中からそう声がきこえた。
「もう八時だから、早く出ないと」
すると今度は返事がなく微かな物音だけがした。
ルネはもう一度ドアを叩き、誰の返事もないのを確認して少しだけドアを開けた。
中は電気が消えて真っ暗だった。
「ウィリアム?」
呼びかけると奥で誰かが身動きするのがわかった。
ルネは入り口近くのスイッチを押して電気をつけた。
明かりの下にはやはり人がいた。
ウィリアムはまだ水着のまま長椅子にうずくまり顔を伏せていた。
「ウィリアム」
もう一度呼びかけるとようやくウィリアムは顔を上げた。
「ルネ?」
「どうした、具合でも悪いのか?」
「……ごめん寝てた」
そう言うとウィリアムは大きくのびをした。
「寝てた?」
「すぐ着替えるよ」
ルネが外で待っていると、ほどなくしてウィリアムが更衣室から出てきた。
「待たせたね。帰ろうか」
二人は通りに出て停留所まで移動した。
「今日は僕もバスで帰るよ。ジョンに君を送るって約束したから」
「いい、遠回りになるだろ?」
「大したことないよ」
ルネがまだ何か言おうとするとウィリアムは顔を逸らした。
「もしかして家に帰りたくないのか?」
「どうして?」
「……似てると思って」
「誰に?」
「昔の私に」
ウィリアムは黙り込んでしまい、二人の間に沈黙が流れた。
バスが街を抜け牧草地を抜け、緩やかな上り坂に入ったとき、ウィリアムがルネに囁いた。
「心配かけてごめん」
「うん」
丘の下の停留所でバスが止まりルネが席を立つと、横にいたウィリアムも一緒に立ち上がった。
「家まで送るよ」
ルネは驚いて首を振った。
「降りなくていい。ここで結構だ」
ルネは急いで降車口へ向かった。
そしてその外に立つ人影に気がついて呼びかけた。
「ジョン!」
ルネは後ろについてきたウィリアムを見て言った。
「彼がジョンだ。もう大丈夫だから」
「そう、じゃあ休み明けに」
席に戻るウィリアムにルネは頷いてバスを降りた。
正門を出てドイと別れたあと、ルネは停留所で次のバスを待った。
標識の影に立って門を出ていく生徒たちの姿を見送っていると、一人遠ざかっていく生徒に気がついてルネは目を凝らした。
そしてルネの足は自然とその生徒を追って動きはじめた。
前を行く生徒は一向に歩みをとめる気配がなく、しばらく歩き続け、とうとう昨日来た建物の前にたどり着いた。
「ウィリアム」
ルネのその声に前を行く生徒は振り返って呆気にとられたように口を開けた。
「ドイが心配していたから気になって。ジョンに電話しないと」
ルネは建物に入り、受付横の公衆電話から電話をかけた。
「昨日言ったばかりでしょう。危ないから帰りなさい」
電話の向こうからジョンの声が響いた。
「でも」
「でもじゃないでしょう。誰と一緒だか知りませんけど……」
ジョンが言い終わらないうちに横から手が伸びてきてルネの手から受話器を奪い取った。
「突然すみません、同級生のウィリアムといいます」
呆然とするルネに構わずウィリアムは話しはじめ、そして電話を切った。
「あ、ジョン」
「話はついた。彼は許可してくれたよ」
階段の前まで来ると前を歩いていたウィリアムが振り返った。
「僕はまたスイミングに行くから」
「あら、ルネ?」
突然声が降ってきてルネは上を見上げた。
「カホリ、こんばんは」
「今日も来てくれたのね。あら今日はお友だちも一緒に参加?」
カホリはウィリアムに視線を移した。
「あ、いえ彼は……」
「ああ、彼氏くんね」
カホリはポカンとする二人に笑みを向けた。
「仲がいいわね」
「いえ、違います」
「そうです、ルネは男の子ですよ」
ウィリアムの言葉に今度はカホリがポカンとした。
「うそ、ごめんなさい。私てっきり……」
「いいんです。今日もよろしくお願いします」
急いでそう言ってルネは階段を上がった。
「ごめんなさいね。勘違いして」
「いえ、大丈夫です。それより」
「なに?」
「あの、私、女に見えますか?」
「そうねえ」
カホリは少し黙ったあと言葉を選ぶようにまた口を開いた。
「中性的な感じ、かしら」
ヨガが終わるとルネは階下の受付の近くでウィリアムを待った。
しかし八時になってもウィリアムは現れなかった。
ルネは様子を見るためプールのある通路奥のドアから中を覗いた。
男子更衣室を見つけるとその前まで行きドアを叩いた。
「ウィリアム、いるか?」
ルネは呼びかけたあと耳をすました。
「誰?」
中からそう声がきこえた。
「もう八時だから、早く出ないと」
すると今度は返事がなく微かな物音だけがした。
ルネはもう一度ドアを叩き、誰の返事もないのを確認して少しだけドアを開けた。
中は電気が消えて真っ暗だった。
「ウィリアム?」
呼びかけると奥で誰かが身動きするのがわかった。
ルネは入り口近くのスイッチを押して電気をつけた。
明かりの下にはやはり人がいた。
ウィリアムはまだ水着のまま長椅子にうずくまり顔を伏せていた。
「ウィリアム」
もう一度呼びかけるとようやくウィリアムは顔を上げた。
「ルネ?」
「どうした、具合でも悪いのか?」
「……ごめん寝てた」
そう言うとウィリアムは大きくのびをした。
「寝てた?」
「すぐ着替えるよ」
ルネが外で待っていると、ほどなくしてウィリアムが更衣室から出てきた。
「待たせたね。帰ろうか」
二人は通りに出て停留所まで移動した。
「今日は僕もバスで帰るよ。ジョンに君を送るって約束したから」
「いい、遠回りになるだろ?」
「大したことないよ」
ルネがまだ何か言おうとするとウィリアムは顔を逸らした。
「もしかして家に帰りたくないのか?」
「どうして?」
「……似てると思って」
「誰に?」
「昔の私に」
ウィリアムは黙り込んでしまい、二人の間に沈黙が流れた。
バスが街を抜け牧草地を抜け、緩やかな上り坂に入ったとき、ウィリアムがルネに囁いた。
「心配かけてごめん」
「うん」
丘の下の停留所でバスが止まりルネが席を立つと、横にいたウィリアムも一緒に立ち上がった。
「家まで送るよ」
ルネは驚いて首を振った。
「降りなくていい。ここで結構だ」
ルネは急いで降車口へ向かった。
そしてその外に立つ人影に気がついて呼びかけた。
「ジョン!」
ルネは後ろについてきたウィリアムを見て言った。
「彼がジョンだ。もう大丈夫だから」
「そう、じゃあ休み明けに」
席に戻るウィリアムにルネは頷いてバスを降りた。